王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます
かならず戻ってくるわ
「まっ、そういうことにしておこう。せっかくバスケットを返しに来てくれたのに、会えなくて、いや、受け取れなくてすまない。急用が出来てここを離れなければならなくなったんだ。エリ。きみに会えなくて、ではなく、きみからバスケットを受け取れなくて残念でならない。きみも、バスケットを直接返せなくて残念だと思ってくれているといいんだけど。きっと借りているものはきちんと返したいと思っているだろうからね」
「ええ、その通りよ。物でもなんでも借りはきっちり返したいもの」
また、笑いながら答えた。
「頼みがあるんだ。今夜は残念だったけど、三日後には戻る。だから、三日後の夜にまた来てほしい。もちろん、バスケットを返しにという意味だ。次回こそは、直接返してもらいたい」
「わかったわ。三日後にまた来るわ」
なぜかはわからないけれど、胸の辺りが鈍くうずいている。
「それから、万が一それまでの間に身の危険を感じるようなことがあれば、三日後でなくてもここに来て欲しい。きみが王宮のどのあたりで働いているのかはわからないが、身のまわりにはくれぐれも気をつけてくれ。初対面での出来事で、きみに危険が迫っている可能性がある。もしも危険にさらされ、だれかに問い詰められるようなことにでもなったら、あの出来事のことを包み隠さず話すんだ。おれのことやここのことを言ってくれていい。それできみの身が安全になるとは約束出来ないけれど、最低最悪な事態は避けられるかもしれない。エリ、いいね?約束だよ」
これはいったいなんなの?
ミステリアスな小説のストーリーなわけ?
ずいぶんとミステリアスでデンジャラスだわ。
「というわけで、せっかくバスケットを持って来てくれたけど、それはそのまま預かっていてほしい。もちろん、タダとは言わない。畑の作物をありったけ持って行ってくれ。収穫時期をすぎてしまう。遠慮なく持って行ってほしい。エリ、来てくれてほんとうにありがとう。バスケットは、おれだと思って大切にしてくれたらうれしいんだが……。くれぐれも気をつけて。間もなく会えることを、心から楽しみにしているよ」
手紙から顔を上げた拍子に、涙が頬を伝った。
なんなの、わたし?
どうしてこんなに涙もろくなってしまったの?いくらなんでも、ナーバスすぎるじゃない。
次から次へと涙があふれ、頬を伝って手紙に落ちてゆく。
やさしくてきれいな文字がにじんでしまう。
「いけない」
慌ててシャツの裾を手紙に当てると、それ以上にじまないように軽く叩いた。
「そうだわ」
会えないときのことを想定し、わたしも彼に手紙を書いている。
それを、彼からの手紙がはさんであったところとおなじところにはさんだ。
こんなことなら、ペンを持ってくるんだったわ。
『かならず戻って来るわ。バスケットを返しにね』
そう書き足しておきたい。
だけど、会えないことを想定して書いたから、また出直すということは書いてある。
勘の鋭い彼のことである。わかってくれるでしょう。
そうだわ。作物をいただかないと。
彼の言う通り、収穫時期を逃せば腐ってしまうかもしれない。
とはいえ、彼もわたしも三日の内には戻ってくるんだけど。
戻ってくる?
そのとき、その言葉に気がついた。
彼が戻ってくるという表現は当然である。
だけど、わたしが戻ってくる?
当たり前のようにそう表現してしまった。
またしても、涙が頬を伝いはじめる。
グスグスと泣きながら、畑の作物を収穫してまわった。
「ええ、その通りよ。物でもなんでも借りはきっちり返したいもの」
また、笑いながら答えた。
「頼みがあるんだ。今夜は残念だったけど、三日後には戻る。だから、三日後の夜にまた来てほしい。もちろん、バスケットを返しにという意味だ。次回こそは、直接返してもらいたい」
「わかったわ。三日後にまた来るわ」
なぜかはわからないけれど、胸の辺りが鈍くうずいている。
「それから、万が一それまでの間に身の危険を感じるようなことがあれば、三日後でなくてもここに来て欲しい。きみが王宮のどのあたりで働いているのかはわからないが、身のまわりにはくれぐれも気をつけてくれ。初対面での出来事で、きみに危険が迫っている可能性がある。もしも危険にさらされ、だれかに問い詰められるようなことにでもなったら、あの出来事のことを包み隠さず話すんだ。おれのことやここのことを言ってくれていい。それできみの身が安全になるとは約束出来ないけれど、最低最悪な事態は避けられるかもしれない。エリ、いいね?約束だよ」
これはいったいなんなの?
ミステリアスな小説のストーリーなわけ?
ずいぶんとミステリアスでデンジャラスだわ。
「というわけで、せっかくバスケットを持って来てくれたけど、それはそのまま預かっていてほしい。もちろん、タダとは言わない。畑の作物をありったけ持って行ってくれ。収穫時期をすぎてしまう。遠慮なく持って行ってほしい。エリ、来てくれてほんとうにありがとう。バスケットは、おれだと思って大切にしてくれたらうれしいんだが……。くれぐれも気をつけて。間もなく会えることを、心から楽しみにしているよ」
手紙から顔を上げた拍子に、涙が頬を伝った。
なんなの、わたし?
どうしてこんなに涙もろくなってしまったの?いくらなんでも、ナーバスすぎるじゃない。
次から次へと涙があふれ、頬を伝って手紙に落ちてゆく。
やさしくてきれいな文字がにじんでしまう。
「いけない」
慌ててシャツの裾を手紙に当てると、それ以上にじまないように軽く叩いた。
「そうだわ」
会えないときのことを想定し、わたしも彼に手紙を書いている。
それを、彼からの手紙がはさんであったところとおなじところにはさんだ。
こんなことなら、ペンを持ってくるんだったわ。
『かならず戻って来るわ。バスケットを返しにね』
そう書き足しておきたい。
だけど、会えないことを想定して書いたから、また出直すということは書いてある。
勘の鋭い彼のことである。わかってくれるでしょう。
そうだわ。作物をいただかないと。
彼の言う通り、収穫時期を逃せば腐ってしまうかもしれない。
とはいえ、彼もわたしも三日の内には戻ってくるんだけど。
戻ってくる?
そのとき、その言葉に気がついた。
彼が戻ってくるという表現は当然である。
だけど、わたしが戻ってくる?
当たり前のようにそう表現してしまった。
またしても、涙が頬を伝いはじめる。
グスグスと泣きながら、畑の作物を収穫してまわった。