王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます
麦わら帽子の男
バラ園にベンチが置いてあることを、この日はじめて知った。
とはいえ、よほど座る人がいないのね。雨ざらしにされていることもあり、鉄製のベンチはすっかり錆びついてしまっている。
それでも、鉄製だから耐久性はあるはず。
夕方になってから、部屋でパステークを堪能した。
パステークを切るナイフは、厨房からこっそり持って来た。
ナイフの一本くらいなら、料理人たちも気がつくわけはないでしょう。
浴室に水をはってパステークをしばらく冷やし、洗面台で切った。
レイの屋敷の近くにある沢で冷やしたパステークは、とっても冷えていて美味しかった。だけど、浴室の水は生温い。
冷えが足りなかった。だけど、元が美味しいから堪能できたことにかわりはない。
それから、本を持ってバラ園にやって来たのである。
そこで、ベンチが設置してあることに気がついたわけである。
錆びだらけの鉄製のベンチに腰をおろした。
手にしている本を膝の上に置き、とりあえず栞をはさんでいる頁を開けた。
文字を追っているつもりだけど、その文字が頭の中にまったく入ってこない。
ときどきこうして庭園に来ているけれど、庭園を管理している管理人というか庭師というか、そういう人に一度も会ったことがないわね。
ってそんな関係のないことをかんがえているから、本の内容が頭の中に入ってこないのよ。
自分で自分に苦笑してしまった。
そのとき、花々の間で何かが動いたような気がした。そう認識したとき、花壇と花壇の間にだれかがあらわれた。
お爺さん?いえ、まだそこまでの年齢じゃないわね。
日に焼けた顔は、若いときはたいそうな美貌だったに違いない。じゃっかん皺は目立つけれど、まだまだ美しいことに変わりはない。
頭にかぶっている麦わら帽子が可愛い。青色のオーバーオールもまた可愛い。それに、とてもよく似合っている。
半袖のシャツから見える腕もまた、日に焼けている。肩や胸板が厚いことが、シャツの上からでもわかる。背はそんなに高くない。でも、足は長そう。
わたしと目が合うと、彼は麦わら帽子を指先ですこしだけ上げて挨拶をしてきた。
目礼を返しておく。
すると、彼は地面に置いていたらしいショベルをつかんでこちらに向かってきた。
そのショベルは、背後から襲われそうになっていたレイを助ける為に黒ずくめの男を殴り飛ばしたものと同じ物に違いない。
もしかして、彼は庭師?
そうよね。こんな恰好で公爵閣下だとか国王陛下だとしたら、その方が驚きよね。
麦わら帽子がどんどん近づいてくる。
近づいて来るにつれ、彼に違和感を覚えてしまう。
厳密には、どこかですれ違ったか見かけたような錯覚に襲われている。
「こんにちは」
その声もまた、どこかできいたかもしれない。そんな気にさせられる。
「こんにちは」
とりあえず、おなじように返した。
「読書ですか?」
年齢は五十代前半か、いってても六十歳手前ね。
青い瞳が印象的である。
それもまた、見たことがある気がする。
この人、違和感だらけだわ。
とはいえ、よほど座る人がいないのね。雨ざらしにされていることもあり、鉄製のベンチはすっかり錆びついてしまっている。
それでも、鉄製だから耐久性はあるはず。
夕方になってから、部屋でパステークを堪能した。
パステークを切るナイフは、厨房からこっそり持って来た。
ナイフの一本くらいなら、料理人たちも気がつくわけはないでしょう。
浴室に水をはってパステークをしばらく冷やし、洗面台で切った。
レイの屋敷の近くにある沢で冷やしたパステークは、とっても冷えていて美味しかった。だけど、浴室の水は生温い。
冷えが足りなかった。だけど、元が美味しいから堪能できたことにかわりはない。
それから、本を持ってバラ園にやって来たのである。
そこで、ベンチが設置してあることに気がついたわけである。
錆びだらけの鉄製のベンチに腰をおろした。
手にしている本を膝の上に置き、とりあえず栞をはさんでいる頁を開けた。
文字を追っているつもりだけど、その文字が頭の中にまったく入ってこない。
ときどきこうして庭園に来ているけれど、庭園を管理している管理人というか庭師というか、そういう人に一度も会ったことがないわね。
ってそんな関係のないことをかんがえているから、本の内容が頭の中に入ってこないのよ。
自分で自分に苦笑してしまった。
そのとき、花々の間で何かが動いたような気がした。そう認識したとき、花壇と花壇の間にだれかがあらわれた。
お爺さん?いえ、まだそこまでの年齢じゃないわね。
日に焼けた顔は、若いときはたいそうな美貌だったに違いない。じゃっかん皺は目立つけれど、まだまだ美しいことに変わりはない。
頭にかぶっている麦わら帽子が可愛い。青色のオーバーオールもまた可愛い。それに、とてもよく似合っている。
半袖のシャツから見える腕もまた、日に焼けている。肩や胸板が厚いことが、シャツの上からでもわかる。背はそんなに高くない。でも、足は長そう。
わたしと目が合うと、彼は麦わら帽子を指先ですこしだけ上げて挨拶をしてきた。
目礼を返しておく。
すると、彼は地面に置いていたらしいショベルをつかんでこちらに向かってきた。
そのショベルは、背後から襲われそうになっていたレイを助ける為に黒ずくめの男を殴り飛ばしたものと同じ物に違いない。
もしかして、彼は庭師?
そうよね。こんな恰好で公爵閣下だとか国王陛下だとしたら、その方が驚きよね。
麦わら帽子がどんどん近づいてくる。
近づいて来るにつれ、彼に違和感を覚えてしまう。
厳密には、どこかですれ違ったか見かけたような錯覚に襲われている。
「こんにちは」
その声もまた、どこかできいたかもしれない。そんな気にさせられる。
「こんにちは」
とりあえず、おなじように返した。
「読書ですか?」
年齢は五十代前半か、いってても六十歳手前ね。
青い瞳が印象的である。
それもまた、見たことがある気がする。
この人、違和感だらけだわ。