王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます

バラ園の端っこにて

 美貌の剣士に迫っている四名が、美貌なのかそうでないのかはわからない。
 こちらに背を向けているからっていうよりかは、覆面をかぶっているから。

 迫られている剣士は、控えめに表現しても美貌すぎる。その美しさは、バラ園にぴったりだわ。

 一瞬、醸し出す雰囲気に違和感を覚えた。

 もしかしたら、おざなりの婚儀の後の形だけのパーティーに出席していたのかもしれない。

 ええ、そうね。タキシード姿ですもの。
 だけど、これだけの美貌ならご令嬢たちが騒いで然るべきよね。

 って、そんな呑気なことを言っている場合ではないわ。

 背を向けている四人は、さっきふっ飛んできた一人とまったく同じ恰好である。

 つまり、黒ずくめで覆面をかぶっている。

 すぐに顔をひっこめた。

 小説だと、こういう場合は多勢の方が悪者なのよね。で、盗み見ているヒロインはたいてい気づかれるの。

 迫られている美貌の剣士が国王とか王太子とかで、その彼がまずヒロインの存在に気がつくの。彼は、ナイフや剣を持った四、五人、ひどいときには十人以上に迫られているのに、めちゃくちゃ余裕なのよ。そして、盗み見ているヒロインは、かならずといっていいほど音を立てるのよ。結局、迫っている悪役にも気づかれて捕まってしまうの。

 悪役が「ヒロインの命が惜しくば」とかなんとか言いだして、美貌の剣士が大ピンチに陥ってしまう。

 ここが不可思議なんだけど、彼はぜったいに助かるのよね。謎すぎる技を駆使し、あっという間に悪役たちを斬ってしまうわけ。

 このシーンの最後は、彼がヒロインを抱きしめ口づけするの。まぁ、そこんところも不可思議この上ないけど。

 いろんな国をまわってきたけど、たいていは書斎や図書室があった。そこにある本棚の本は、絵画のように飾っているだけで読まれることはない。だから、こっそり持ち出して読んでいた。

 どこの国の作家も、たいてい同じようなパターンを描いているのよね。

 さて、と。

 いま、わたしはどうしたらいいかしら?

 あいにく、わたしはヒロインじゃない。迫られている彼は、たぶん国王でも王子でもない。もしもそうだったら、婚儀やパーティーの際にこれみよがしにひけらかしたでしょう。

 なにより、これだけの美貌ですもの。美貌の国王や王子だったら、いろんな意味で目立つわ。
 だから、そんな地位の人ではないはずよ。

 ということは、小説のパターンにはあてはまらないわけで……。

 じゃあ、いっそのこと見なかったことにしてこの場を去る?

 そうね。どうせ彼がだれでどうなっているのかもわからないし、関わり合いになる必要なんてどこにもないわ。

 そうと決まったら、はやくここから退散しましょう。
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