大聖女はもう辞めました!13度目の人生は立派な悪女を目指します~ループするたび生贄になるので、今世は竜騎士王子とちびドラゴンと自由を満喫します~

番外編1.ドラコーンの小さな市

 ドラコーン島の村では年の瀬を前に、小さな市が開かれていた。
 王都のように大きな祭りのないこの島では、一年最後の市がお祭りの代わりのようなものだ。
 他の島に働きに出ていた娘たちも、この時期になってくると休みをとって帰ってくる。

 イディオスとティア、そしてキュアノスは、市へ買い物に来ていた。
 玄関に飾るリースの材料を探すのだ。ドラコーンでは年末から年始にかけて、玄関先にリースを飾り、年が明けてしばらくしたらリースを燃やす風習があるのだ。

 イディオスは当然のようにティアと手を繋ぐ。
 キュアノスも当然のようにティアの肩に乗っている。
 イディオスはティアだけに微笑みを向けている。

 ふたりは、リースの材料が集められた店にたちよった。
 常緑樹の枝と、飾り付け用の木の実を選ぶのだ。枝の種類も、木の実の種類も豊富で、ティアは目移りしてしまう。

「ティアちゃん、いらっしゃい」

 店の主人が声をかけ、ティアはニッコリ微笑んだ。
 イディオスは無表情で、しかしさりげなく後ろからティアをマントで抱き込んだ。
 店の主人は苦笑いをする。

「初めてリースを作るんですけど、どれがオススメですか?」

 ティアが店の主人に尋ねる。

「ここにあるのは全部リースに使えるから、好きな枝にしたらいい」

 主人の言葉に、うーんとティアは考える。

「好きな枝……」

「ティアちゃんはなにが好きだい?」

 主人に問われて、ティアはイディオスに振り返った。
 雪のように美しいイディオスは、ティアの視線を受けて微笑んだ。

「……聞いたのは野暮だったかな」

 店の主人が笑い、ティアはボッと顔を赤らめる。

「~~!」
「イディオス殿下が好きなら、これなんかどうだい?」

 店の主人は、白っぽい葉のついた木の枝をティアに勧めた。

「ブルーアイスって呼ばれてる木だよ」

 銀色の光りをまとったような木の枝は、イディオスを思い浮かばせた。

「はい! とっても素敵です」
「だったら、リボンはティアと同じピンクを」

 イディオスがサファイヤピンクのリボンを指ししめす。

「だったら、キュアノスと同じ青い木の実も必要ね」

 ティアが言う。
 すると、キュアノスはご機嫌で「きゅぁん」とティアの頬に頬を寄せた。

「赤い柊の実と」

 イディオスが言えば。

「白い柊の実」

 ティアが答える。
 息のピッタリ合ったふたりと、キュアノスの姿はまるで仲の良い夫婦とその子供のようだ。
 人混みの中でも、隠しもしないイディオスの溺愛具合に、冬休みで帰ってきた娘たちはわが目を疑った。

「あれが……今まではに来ることもなかったイディオス殿下?」
「……ドラゴンに乗っている姿しか見たことがなかったけれど、本当に美しいのね」
「それにしても……冷徹竜騎士だなんて誰が言ったの!?」
「こんなことなら、私もお城で働けば殿下のおそばに――」

 言いかけた自分の娘の頭を、そばにいた母親がパコンとはたく。

「なに言ってんだい! ドラコーン城を悪く言ってたのは誰だい! 島ごと嫌がって出て行ったくせに」
「だって、ドラゴンが怖いもん!! でも、殿下があれほどまでに綺麗な方だと知っていたら、怖くたって我慢できるわ!」

 また母親がパコンとはたく。

「お黙り。自分を見つめなさいな」
「なによ! 私だって、ほかの島じゃそれなりに人気なのよ!」

 頭を抱えて憤慨する娘に、母親が目配せする。
 娘がその目線の先を見ると、険しい顔をしたイディオスがいた。ティアを守るように脇に抱えこみマントで隠している。
 ティアに向かってふざけてちょっかいを駆けてくる竜騎士団員たちを威嚇しているのだ。

 その怖ろしくも美しいイディオスの姿に、娘たちは思わず鳥肌が立ちよろめいた。

 イディオスが竜騎士団員たちを追い払うと、マントに隠されていたティアが背伸びをし、彼になにかを囁く。
 するとイディオスは、叱られた子犬のように小首をかしげてティアを見つめた。
 ティアはしょげたイディオスの頬をヨシヨシと撫でてやる。
 すると、イディオスは満足そうにティアの手に頬をすり寄せた。

 その様子を見た村の人々は、思わず手を止め感嘆する。
 あまりにも甘く美しい世界に見蕩れたのだ。

 キュアノスが不愉快そうに「ギュア」と、イディオスをはたき、村の人々はハッ我に返った。
 村にざわめきが戻る。

「……アレを見ても同じ事が言えるかい?」

 母親の言葉に、娘は口元を押さえうつむいた。
 落ち込んだのかと心配する母親が、娘の顔を覗きこむ。
 娘は気味の悪い顔つきで、デュフフと笑っていた。

「お、……推せる……コンビ推し……」

 母親は見てはいけないものでも見たように、目を逸らした。

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