天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
「茉莉花ちゃん。これは京香さんとの思い出のたこ焼きなんだ。ふたりでよく食べていたんだ。前に君からたこ焼きの話を思い出した、と言われた時には驚いたよ。

「あ……! たこ焼きの話ですね。母が大学の駅のそばにある小さなお店だけど美味しかったと何度も言ってたんです。行ってみたいといくらせがんでも連れて行ってはくれませんでした」

「そうか。いい思い出も悪い思い出も思い出してしまうから行けなかったのかもしれないな」

困ったような笑みを浮かべながら墓石を眺めていた。
私はたこ焼きを受け取ると楊枝でひとつ口に入れた。
冷めていたが大きなタコが入っており出汁の効いたたこ焼きとソースやマヨネーズがよく合いとても美味しい。
私が食べているのをみて佐倉さんも口にした。

「うん、美味いな」

私も頷いた。
ふたりで墓石の前でたこ焼きを食べる光景ははたから見たらおかしなものだろう。けれど3人でやっとこうして食べることができたのだと思うと感無量だった。

「京ちゃん、遅くなってごめんな」

他所を向いていると小さな声が聞こえてきた。私は「バケツを片付けてきます」と言いその場を離れた。
少しだけ2人だけの時間にしてあげたかった。
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