天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
しばらくして戻るとたこ焼きのゴミや包み紙は片付けられており、帰る準備がされていた。
ふと目に留まるものが墓に置かれていて驚いた。
佐倉さんは私の視線に気がつくと笑っていた。

「25年前に京香さんに渡そうと思っていたものなんだ。ずっと持ったままで渡せなかったのをようやく渡すことができたよ」

え、でも……。
こんな高価なものをここに置いていくわけにはいかないのではないか。
リングケースに入っているのを見る限り中身は指輪だろう。

「中身を見てくれないか?」

私が手に取り、ケースを開けると一粒大きなダイヤがあり、その周りにピンクダイヤが二粒ついていた。

「プロポーズ用に買っていたものなんだ。この25年忘れられずにしまってあった。今日ここで渡そうと思ったんだ」

佐倉さんは本気で結婚する意思があったんだ。ケースのデザインは少し古くて、最近のものに見えない。けれど中に入った指輪は誰にも触れられていないのかとても綺麗だった。

「京香さんの手には渡せなかったが茉莉花ちゃんに持っていてもらえたらと思って」

私は頷き、受け取った。

「うちの仏壇に上げさせてもらいますね。母は誰からももらったことがないので喜ぶと思います」

すると彼は何度も何度も頷いていた。

「好きな人がそばにいれば人生は豊かなものになる。それを私が1番実感しているんだ。だから君には後悔のないようにして欲しいと願ってるよ」

「ありがとうございます」

佐倉さんの言葉はとても重く、実感がこもっていた。
私たちはお墓を後にまた電車とバスを乗り継ぎ帰った。
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