天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
旅行の前の週になりお昼休憩でスマホを確認すると啓介さんからのメッセージが届いていた。

【チケットの手配が出来たんだけど渡しに行けなさそうなんだ。取りに来れないか?】

神戸に行くことが決まったが、年末に向けて啓介さんは仕事が忙しくなって来た。メッセージのやり取りは欠かさないが直接会える時間は取れなくなっていた。
19時に会食に出てしまうのでその前に会社のロビーで受け渡せないか、と連絡がきた。こんな忙しい中、私のチケットの手配をさせて申し訳なく思い、二つ返事で撮りに行くことにした。

会社に到着すると受付で声をかけた。

「すみません。林田と申しますが社長秘書の竹之内さんをお願いします」

そう伝えると私をジロジロと観察するような目で見てから、「伺っております。あちらでお待ちください」とエントランスの端に置かれたソファを指さされた。
私は頭を下げ、指さされた方向へ進むとエントランスには花や観葉植物がそこかしこに置かれ、さすがAnge fleur Jusminだ。ソファに座ると先程とは違う受付の女性がお茶を運んできた。
お礼を言うが彼女もどこか人を見定めるような視線で正直なところ居心地が悪い。
ソファに座り、周りの花を見たりしていると小さな声が聞こえて来た。ううん、聞こえるくらいの大きさで話しているのだと思った。今来客者は私だけなので気にしなくていいのだろう。

「竹之内さんの彼女ってあの人なの? 地味じゃない?」

「社長の親戚なんでしょ?」

「だからかぁ。そうじゃなきゃ、あの竹之内さんに釣り合い取れないもんね」

「そりゃそうでしょ。竹之内さんほどの人があの人を選ぶって何か理由がなきゃ納得いかないでしょ」

私の方をチラチラ見ながらクスクス笑う声が聞こえて来た。

「社長の親戚ならいい人捕まえたんじゃない? 社長に子供はいないし、そもそも竹之内さんの事可愛がっているから親戚になれたら後継指名できるしね」

「そっかぁ。何もなくても親戚ってだけで竹之内さんに選んでもらえるのね。羨ましいね」

何もなくても選んでもらえる。
啓介さんは私が佐倉さんと親子関係にあるから付き合っているの?
今までの彼の言葉を信じたい。
けど今彼女たちに浴びせられた言葉はすっと心に入ってきた。なぜなら、私も彼に選んでもらえるだけの人としての魅力が自分にあると思えなかったから。
< 125 / 167 >

この作品をシェア

pagetop