天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
私は電車に揺られ、自宅のある駅に着いた頃には23時を過ぎていた。
とぼとぼと歩きようやくアパートの前にやってくるとドアの前に彼の姿があった。
会社で会った時と同じスーツ姿で、薄暗がりの中どこか疲れたような表情を浮かべながらスマホを見ていた。  
彼は私の姿に気がつくとスマホをポケットにしまい、駆けつけてきた。 

「茉莉花!」

彼の姿に驚いていると近づいてきた彼にぎゅっと抱きしめられた。

「何かあったんだろう? そうじゃなきゃこんな夜に前住んでいたところなんていかない。大丈夫か? 会社で気がついたのに追いかけられなくてごめんな」

啓介さんは悪くないのに……。
私はやっぱり彼が好きだ。 
この匂いに安心する。
抱きしめられた彼の胸の中にいるだけで幸せな気持ちになる。
頭の上に彼のキスが落ちてきた。

「こんなに体が冷えてしまってかわいそうに。部屋に入るといい。俺も顔を見れて安心したから帰るよ。けど、夜中でも何かあれば連絡して。一緒に考えたら解決するかもしれない。聞いてあげるだけかもしれないが、茉莉花がひとりで悩んでいるのは嫌なんだ」

私の背中を撫でながら諭すように声をかけられる。
もうダメだ……。
私は離れそうになる彼にしがみついた。

「帰ったらイヤ」

涙声になり、自然と彼の顔を見上げると唇が重なった。

「茉莉花、そんなこと言われたら帰れなくなるだろ」

私の頭を撫でながら少し困ったような顔をして笑っていた。
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