天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
「話したいから部屋に来ない?」

夜も遅いし、外でこうしていては迷惑になる。それにこの格好のままでは話しにくい。
彼は頷くと私の肩を抱き寄せ、密着したまま私の部屋へ向かった。

部屋に入ると冷え切った身体を温めるためお湯を沸かそうとするが、彼に止められ、いつものテレビの前に連れて行かれた。
いつもの膝の中に座らされ、私な顔を正面から見られず、彼の顔も見えない。

「さて、教えて。どうしてそんなこと考えてるのか」

私は恐る恐る今日あった話をした。

「会社に行ったら……噂話が聞こえてきたの。啓介さんと付き合う人は特別な人じゃないとって。あなたのような見た目も実力も兼ね備えていて、さらに性格までいい人に選ばれるたのは佐倉さんの親戚だからだと。私のような見た目の人間はそうでなければ選ばれないって」

背中から彼の身体が硬くなるのがわかった。

「でもね、その通りだと思ったの。私には何もないから。見た目だって普通。むしろ地味だし、オシャレには疎い。その上何か秀でるものもない」

彼は何も言ってくれない。
背中から温かい温もりと鼓動を感じる。

「情けないけど本当のことなの。だから啓介さんに選んでもらえた理由が分かった気がしたの」

「俺は茉莉花が好きだと何回も言った」

「うん……。でもどこかで、どうして私を選んでくれたんだろうって自信がなかった」

「俺の言葉は聞き流して、受付の子たちの話には耳を傾けたのか?」

やはり声が冷たい。
どうしよう。
顔が見たいけど彼の腕の中にいる今、背中越しでお互いの顔は見れない。
どうすることもできず身体を固くしているとぎゅっときつく抱きしめられた。今までよりも強く、逃さないとばかりに巻き付けられた手に胸が締め付けられた。
< 133 / 167 >

この作品をシェア

pagetop