天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
新幹線に乗るのが初めてで緊張していたが、東京駅に着くと指定された場所で待ち、乗り込んでしまえば困ることはなかった。
ただ、あの日以来久しぶりに会う啓介さんのことを考えるとドキドキしてしまい新幹線の中でも落ち着かなかった。

「茉莉花!」

駅に着くとみんなの流れに乗り改札を出ると正面にスーツ姿の啓介さんがいた。
片手を上げ、私の方を見ている姿にドキドキしてしまう。

「大丈夫だったか?」

私のバッグをさっと肩から外し、自然の流れで持ってくれる。
片手を腰に当てられ人混みの中をすり抜けるように誘導してくれる。

「大丈夫でした。緊張したけど大冒険みたいで楽しかったです」

「まだ大冒険は始まったばかりだよ。さ、行こう」

うん、確かに始まったばかり。
楽しい旅行にしたい。
啓介さんとの思い出をたくさん作りたいと思った。

「茉莉花、お腹は空いてる?」

「はい。実は緊張もだけど乗り物酔いするのが怖くて何も食べれなかったんです」

旅行にあまり行ったことがなく、最後は高校の修学旅行だったがその時は電車とバスで酔った記憶があった。だから啓介さんと会うのに具合が悪くなるのが嫌で何も口にできなかった。

「そうだったのか。今は大丈夫か?」

「はい。大丈夫でした」

「なら夜も遅いし、軽く食事をしようか」

啓介さんはタクシー乗り場に向かうとホテルの名前を伝えた。
いざホテルの名前を彼の口から聞いただけでまた緊張が高まった。
彼と泊まるんだと思うだけで顔が火照ってきた。
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