天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
私はベッドに気を取られつつも冷静を装い、彼に手を引かれホテル近くの小料理屋へ連れて行かれた。

「ここは何でも美味しいんだ。時間も時間だし、ここでいいか?」

見た目はちょっと若い人に好かれるような感じではない。けれどもうすぐ22時になろうとしており、特に希望はなかったので頷くとふたりで店の暖簾をくぐった。
中は小綺麗にされていて女性がカウンターの中で切り盛りしていた。

「あら、竹之内さん。いらっしゃい。女性と一緒なの?」

「こんばんは。こんな時間にすみません。ふたりでいいですか?」

「もちろんよ。座ってちょうだい」

啓介さんのやり取りを聞いていると名前まで覚えられているところを見ると何度も訪れているよう。私たちはカウンターの端に腰掛け、ビールをもらうとグラスに注いだ。

「お疲れ様。茉莉花の冒険第一歩に乾杯」

「お疲れ様でした」

喉を通るビールの冷たさが疲れを癒やす。
私は啓介さんのおすすめをお願いすると女将がどんどんと目の前に並べ始めた。
品数は多いが量はそこまで多くなく、また疲れた身体に優しい味付けでホッとさせられた。疲れや緊張からあまり空腹感を感じていなかったのに箸が進んでしまい、結構な量を食べてしまった。終始彼も機嫌が良く、箸の進みが早かった。

「女将、お会計お願いします」

彼が声をかけると伝票などはなく、口頭でのやり取りとなる。ファミレスのようなシステムでなく私にはハードルが高いと感じたが、こんな美味しいお店なら近くにあればまたきたいと思えるようなところだった。
啓介さんはさっと会計を済ませると席を立った。

「ごちそうさまでした」

私が声をかけると女将は笑顔で送り出してくれ、本当に雰囲気の良いお店だった。見た目だけで判断しては良くないと思わされた。連れて行ってくれた啓介さんに感謝しなければ、とついお酒の力もあったのか帰り道彼の腕に自分から腕を絡めていた。
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