天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
テレビってこの前の街散歩のことかしら?
芸能人が商店街を歩き回るものでうちのお店にも寄ってくれた。ふみさんたちに「看板娘なんだから対応をお願い」と言われ、前に出させられた記憶がある。

「あなたの笑顔と話し方はお母様そっくりだったそうです。林田と名字をおっしゃっていたので確信したと。それで私の方で少しお調べして京香さんにたどり着きましたがすでに他界されていらっしゃいました。社長はそれをかなり悔やまれており、茉莉花さんと是非お話がしたいとのことです」

「そうでしたか」

「社長は茉莉花さんの時間に合わせますとのことです。いい時間で場所も指定していただけたらそこに必ず伺うと伝言を預かっています」

忙しくて今日も来れない社長さんが私のために時間を割くと言ってくれていると思うとさっきまで感じていた恐怖が薄れてきた。

「本当はお線香を上げさせて欲しいとのことでしたが初対面の人間が家に入るのは社長としても不躾だと思われたようです。ただ、京香さんを偲ばせてほしいと」

「お気遣いいただきありがとうございます。お忙しい方のようですので私が時間を合わせます」

私の知らない母の話を聞いてみたいと思った。ずっと母を探してくれていたのには理由があるのだろう。

「こちらの時間でよろしいのですか? では、さっそくですが明日はいかがでしょうか。お昼をご一緒されませんか?」

「わかりました」

「お店は日本料理「みかど」でいかがですか?よく利用させていただいているので今からでも席が用意できると思います。ここからですと電車になりますが迎えの車を寄越しましょうか?」

迎えの車?
まさか、そんなことを言われるなんて思いもしなかった。

「大丈夫です。自分で行きます」

「では、時間を確認してから連絡させていただきます。よろしければ電話番号をお伺いできますか?」

私は頷くと差し出されたメモに番号を書いた。
竹之内さんと別れ、家に入るとドッと疲れが出て座り込んでしまった。
まさか母の知り合いだったとは思いもしなかった。けれど名前も知れ渡るような人が悪いことをするように思えず、また母のことを探していたと言われたら少しだけ興味が湧いた。
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