天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
母が癌になり、私は母に体に良いものを食べてほしいと栄養士になることを決めた。
もともと母が仕事をしていたため私が家事をすることも多く、料理するのは嫌いではなかった。
母のため、と始めた栄養士の勉強は興味深く天職に思えたが母が亡くなり学費がままならなくなってしまった。
医療費はかさみ、母はそれをとても気にしていたが私は母に出来る限りの医療を受けて欲しかった。母がいなくなってしまったら私は天涯孤独になってしまう。考えるだけで胸が苦しくなった。
母は父と結婚することなく私を出産した。それを許さなかった両親から勘当されてしまったがいつも私を産んだことは何ひとつ後悔していないと言い切ってくれる強い人だった。
母の母、私の祖母は私たちを見かねて祖父には内緒で様子を見に年に数回訪れるようになっていた。笑顔が母によく似た優しい人で、食べるものを山ほど持ってきてくれるのに来るたびに私を買い物に連れ出してくれ、好きなものを買い与えてくれた。おばあちゃん、と呼ぶとはにかむ可愛らしい祖母だった。けれどそれも中学生の頃になると足は遠のき、風の噂で亡くなったことを知った。
母は最期の時に立ち会うことも許されず、亡くなったことを他人から聞きショックを受けていた。母が泣いたのを見たのはこれが最初で最後だった。
親不孝をしてしまった、と奥歯を食いしばりながらタオルに顔を埋める姿が今でも忘れられない。
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