天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
母が亡くなり、金銭的に困窮してしまった私は誰にも頼ることができず、大学を休学しようかと思ったが今後払える見込みもないため潔く退学することを選んだ。
住んでいたところから引っ越しを余儀なくされ、私は保証人もいらない安いアパートに引っ越した。これからどうしたらいいのか悩み、歩いていたところいい匂いに誘われ安治郎にたどり着いた。
食欲がなく、最後に食べた食事さえ覚えていなかった私が久しぶりに覚えた空腹感。
夕方だったためお弁当は残りわずかで選べるほど残っていなかった。
ふとアジフライ弁当が目に止まった。母が大好きだったアジフライを見て喉の奥から込み上げてくるものがあった。その場で立ち尽くし、流れてくる涙を拭こうとハンカチを探すがなかなか見つからない。
するとふと私の顔に優しい匂いのするタオルが渡された。

「ほうら、これで拭きなさいな。こっちにおいで」

そう言いバックヤードに連れて行って座らせてくれた。
温かいお茶を入れてくれ、渡されたおにぎりにますます涙が止まらなくなってしまい嗚咽を漏らしているとふみさんが頭を撫でてくれた。

「どうしたの? 私でよかったら話していかない?」

優しい雰囲気の彼女につい心動かされ私は今の心境をポツポツと語り始めた。
母を失い天涯孤独になってしまったこと、住んでいたところを出され引っ越してきたこと、大学を辞めざるを得ず退学したがこれからどうしたらいいのか……。
ふみさんは涙声になり、私の背中をさすってくれた。

「あなた、名前は? もしよかったらしばらく一緒に働いてみない?」

「え?」

「ひとりでいたら気が滅入るでしょう。私たち3人で切り盛りしているけど結構忙しいのよ。だから手伝ってみない? まかないもでるわよ」

私のために涙を浮かべてくれたふみさんの、お日様のような笑顔を向けられ、私は導かれるようにここで仕事をさせてもらうことを決めたのだ。
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