天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
ちょうど部屋のドアがノックされる音がした。

「林田さん、ご在宅ですか?」

竹之内さんの声だ。
彼は私の休みも調査済みだったのだろう。

「は、はい」

昨日は出られなかったが、今日はなぜかでなければと思った。

「少しだけお話し出来ませんか?」

私はその声を聞き、立ち上がるとドアのチェーンを外した。

「ありがとうございます。昨日のメッセージも社長が拝見し、私の前なのに男泣きされていて驚きました。そんな社長を見て、ひとりの人間としてこのまま終わっていいのだろうかと思い社長には言わず今日は来ました」

「そうですか」

「私のスマホでのやり取りでしたので内容は見させていただいてしまいました。申し訳ありません」

「いえ。いいんです。私も竹之内さんのスマホだとわかってやり取りしましたから」

佐倉さんは私の番号を知らない。竹之内さんも私の許可なく教えなかったのだろう。もちろん表示を見ればわかるだろうが、知らない人からのメッセージを私が読むとも限らない。だからこそ佐倉さんも竹之内さんのスマホから送信してきたのだろう。

「社長は本当に真面目な方なんです。仕事に対してはストイックな面も多々ありますが、面倒見がいいし、なにより部下を信頼して任せてくれます。やってみろ、と背中を押してくれる男気のあるところもあります」

竹之内さんは心底佐倉さんのことを尊敬しているのだろう。だんだんと声が大きくなってきたため、私は周囲の目が気になり始めた。

「お話中ごめんなさい。よかったら家で話を聞かせてもらえませんか?」

「いいんですか? ありがとうございます。少しだけお時間をください」

私は家の中へと案内をした。
安アパートで恥ずかしいが、これ以上の物件はなかったのだから仕方ない。
古いがふた部屋あり、キッチンも独立しているので住んでみたらそこまで卑下することもないのだが、他人から見たらこんなところに住むなんて、と思われるようなアパートなのは自覚している。

「古くてお恥ずかしいですがどうぞ」

彼は玄関できちんと頭を下げ、靴も揃えてから入ってきた。
リビングにあった仏壇に気がつくと「お線香をあげさせていただいてもいいですか?」と尋ねられ、頷いた。
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