天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
「茉莉花ちゃん、今日は煮魚があるわよ。持って帰ってね」

「ふみさん、ありがとうございます」

煮魚が残ってる、と言われても必ず端に煮物やサラダも詰めてあり私の夕飯になる。
幸子さんも残り物を詰めてくれ、私は食べるのに困らなくなりとてもありがたい。
幸子さんは旦那さんと二人暮らし。子供たちは私よりも年上でみんな自立しているので私のことを末っ子のように見て何かと世話を焼いてくれる。
こんなにいい職場は他にはない。
誰にも頼れないと孤独に苛まれていたが、ひとりじゃないってやっと思えるようになった。

「明日からの休みは何するの?」

ふと幸子さんに聞かれた。
明日から5日間、安治郎さんとふみさんはお子さんの結婚式で山形に行くため連休になった。
基本土日祝日の休みのため5日間という長期の休みはここで働き始めて初だ。忙しい2人は旅行する機会もなかったので娘さんの結婚式に出席しながら観光してゆっくり帰ってくる予定。もちろん土日も絡めているので実質3日の休み。

「茉莉花ちゃんの予定がないならうちに夕飯食べに来ない?」

「いえ、そんなの申し訳ないです。それにせっかくの連休なので何か有意義に過ごしたいなぁと思ってるんです。まだ決めてないんですけどね」

「あら、そうなの? 茉莉花ちゃんも若いからたまには羽を伸ばすといいわよね。私たちみたいなおばさん相手じゃ疲れるだろうしね」

「そうよね〜、優しいから付き合ってくれるけど本当なら茉莉花ちゃんみたいに可愛くて優しい子はこんなところで働かないわよね」

うんうん、と2人して話し始めてしまうが私はここほどいい職場はないと本当に思っている。

「ふみさんも幸子さんも、私ここで働けで本当に幸せなんです。だからいつまでも働かせてください!」

「そう言ってくれて嬉しいわ。でも茉莉花ちゃんは若いんだからどんなチャンスが訪れるかわからないのよ。もし何かチャンスが訪れたら決して私たちのことではなく自分がどうしたいかを考えてね。私たちはいつだって茉莉花ちゃんを応援してるから」

私は喉の奥に熱いものが込み上げてくる。本当の私の母のような温かい言葉をもらい私はつい目元が潤みそうになってしまうが、もうここでは散々泣いたのでいつまでも泣いてはいられない、と心に誓い奥歯を噛み締め涙が流れるのを踏みとどめた。
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