天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
日曜日の午後ということもあり展望台は混雑していた。家族連れも多く、賑わっており母ときたことを思い出した。

「今日は晴れているし、遠くまでよく見渡せるね」

「気持ちいいですね」

手すりにつかまり隣同士で並んだ。混んでいて隣の人に押され彼とぴったりくっついてしまった。

「あ、ごめんなさい」

すると彼は自分の腕の中に私を入れると後側に回った。
急に背中が温かくなり、胸の鼓動が速くなる。
どうしたらたらいいのかわからず俯いてしまうと、耳元で彼の笑う声が聞こえた。

「下を見てもつまらないでしょう。ほらあっちを見て。富士山が見えるよ」

秋の空気で澄んでいるからなのか遠くに富士山が綺麗に見えた。

「本当。あんな遠くまで見えるんですね」

「あぁ」

耳元で聞こえる彼の声にドキドキしているのを気づかれないか不安になる。
こんなことでドキドキしているなんて恥ずかしい。
でも普通知人や友人でこんなことをするものなのかしら。

「ほら、飛行機がきた。どこに行くんだろう」

また耳元から聞こえる彼の低めのバリトンボイスにドキッとした。

「ほ、本当ですね。私は恥ずかしいこと一度も乗ったことがないんです。だからどこに行くのかわからなくて」

「そうか。今は日帰りだって乗ることができるんだからそのうち一緒に乗ろう」
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