天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
彼はそう言うと私の後ろから回していた手を外し、後ろの人と場所が変われるよう移動を促してきた。
腰に手を当てられさりげなくリードする彼の仕草にまた胸が高鳴る。
彼といると何度となく胸が高鳴り、苦しくなる。どうしてなのだろう。

「茉莉花ちゃん、こっち」

回廊を回っていると彼が指差していた。
指の先に何があるのかわからない。

「あそこの大きなマンションわかる? 二つ並んでいるんだけど。あれが社長の家だよ」

こんな遠くからでもわかるくらい大きなタワーマンション。そこに佐倉さんが住んでいると言うのか。あまりの凄さに言葉が出ない。

「社長は地に根を張った戸建で小さな家がいいと言うんだけど、社長という肩書きで周囲からあそこに住まわされてるって感じだな」

「佐倉さんは小さな家の方がいいんですか?」

「うーん。あんまりこだわりがないんだと思う。今でも独身だし、住めればいいんだと思うよ。社長はあまり執着がないんだ。前から知ってる人からすれば前はあったらしいけど今は仕事以外のことに関心がなくなったらしい」

佐倉さんって不思議な人。
仕事以外に関心はないというのにテレビでたまたま映った私を探し出すなんて骨が折れることだろう。それをするほどに母と繋がりたかったのだろうか。
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