天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
恐る恐るポストの中を確認すると名刺とメモが入っていた。
手帳を破いたメモだが字はとても達筆だった。

【突然の訪問で申し訳ありません。Ange fleur Jusmin の竹之内と申します。当社の社長が林田様にお会いしたいと申しておりまして本日は不躾ながらお邪魔させていただきました。また改めてお伺いさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします】

名刺にも社名が入っており竹之内さんの肩書きは秘書となっていた。
Ange fleur Jusmin といえば大手のフローリストのはず。なぜ私に会いたいのかわからない。ましてや社長だなんて知り合いだったはずもない。何かの間違いではないだろうか。
何度考えても分からない。
また来ると書いてあるが来られても困る。
知らない社長に会いたいと言われても恐怖しかない。
どうしよう。
誰かとお間違いではないですか?というだけだが、何か嫌な予感がする。
不安がよぎるかが自分から連絡する気にはなれない。
せっかくの連休初日なのになんだか気が滅入ってしまった。
気を取り直して私は夕飯の準備に取り掛かった。
具沢山の豚汁にご飯をつくると秋刀魚を焼き、大根おろしを添えた。
「完璧」
つい独り言が漏れるくらい栄養たっぷりの夕飯ができた。
両手を合わせるといつものように、いただきますと言い食事を始めた。
優しかった母だが食事だけは厳しく、必ず手を合わせてから食べるように、ご飯粒は残してはいけない、迷い箸をするな、など口うるさく言われていた。
大人になってみるととても大切なことだったのだと気が付いたが、子供の頃はいちいち面倒くさいなと思っていた。けれどそんな些細なことが母との大切な思い出になるとは思わなかった。
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