天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
「もちろん帰る途中の時もある。けどそうでないことの方が圧倒的だ。セキュリティもないアパートに女の子ひとりで心配がっているんだ」

佐倉さんが私の様子を見るためだけに来てくれていたなんて驚いた。

「社長は京香さんの娘である茉莉花ちゃんをバックアップしたいと思っている。けれど君がそれを望まないことも分かっているんだ。だから影ながら見守っている」

私は頷いた。

「社長にとって君たち親子は特別な存在なんだ。最近俺はお弁当を買いに行くだろ? その話をするたびに睨まれるんだ。堂々と行ける俺が羨ましいって。けど一緒に行こうと誘うと遠慮してしまうんだ。そんな人なんだよ」

「はい。佐倉さんに初めて会った時の泣き顔は覚えています。すごく心の優しい人だと感じました。あの日は母を侮辱された気がしてしまいましたが佐倉さんは順を追って話したかったんですよね」

私が横を向き彼の顔を見ると視線がぶつかった。そして大きく頷いた。

「あんなことを言ったにも関わらず私を見守り続けてくれるなんて驚きました。佐倉さんとまた話せたらいいなと思います」

「あぁ。また茉莉花ちゃんと話すチャンスをあげて欲しい。やっと俺と一緒に弁当を買いに行けるようにはなったが声はかけられないみたいだしね」

彼は軽口をたたくような言い方で笑いながら話してくれる。そして私の頭の上にそっと手を置いた。
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