天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
「茉莉花さん」

目を凝らして男性を見ると佐倉さんだった。

「こんばんは。驚かせちゃったかな?」

はい、とは言えず私は苦笑いした。

「こんばんは。今日帰国されたんですよね? お疲れ様でした」

「ありがとう。これお土産なんだ。もし良かったらと思って」

佐倉さんは手にしていた紙袋を差し出してきた。受け取ると見た目に反して中身はずしっと重く驚いた。チラッと中を覗き込むとたくさんのものが入っていた。

「こんなにたくさん? ありがとうございます」

「見ていたら何を買ったらいいのかわからなくて。それで、女の子が喜びますよと言われる度につい買ってしまったらこんなになってしまったんだ」

ハハハ、と照れ隠しのように笑う佐倉さんの表情は優しく、どこか癒されるような穏やかな空気があった。

「いらなかったら捨てていいから。それと……これを仏壇に供えてもらえないか?」

手にしていたもう一つの紙袋を手渡された。こちらはとても軽く、開いてみると中には小さなブーケが入っていた。

「仏壇には似合わないが京香さんには可愛い色が似合うから」

仏花ではなく、まるで恋人に渡すような可愛らしい色合いのミニブーケだった。淡いピンクやイエロー、グリーンといった母の好きそうな色と種類。母は大輪ではなく小さな花が好きだった。そしてヒペリカムが差し色に入っているのを好んでいたのを思い出させた。佐倉さんは母の好みをきちんと覚えていてヒペリカムを入れたのだろうか。

「この花は母のイメージなのでしょうか」

「そうだね。穏やかな色合いを好む人だった。けどこの赤い実のようなヒペリカムが好きだったね」

懐かしそうに話す佐倉さんは暗くて良くは見えないが少し鼻を啜っていた。
私はミニブーケが入った紙袋を彼の手に返した。

「良かったら直接供えてあげてください」

え? と驚いたような声を上げていたが佐倉さんは受け取ると「いいのかな?」と伺うような声で聞いてきた。

「はい。佐倉さんは母のことをよく分かっていらっしゃるようですもん。私が供えるより直接お願いします」

私が部屋に向かって歩き出すと彼は一歩遅れてついてきた。
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