崖っぷちで出会った 最高の男性との最高のデート(ただし個人の感想です)
「きゃあっ」
投げ飛ばされ、弓弦は寝室の床にスライディングのように倒れた。
バスローブの紐が外れて裾が捲れ上がり、下着が丸見えになる。
「色仕掛けをするなら、身につける物はもう少し選んだ方がいいぞ」
三枚千円のパンティを見て男が言う。それでもプラジャーと色を統一しているつもりだ。
「ち、ちが・・」
「それともいつも相手をしている男は、こういうのが趣味なのか」
恥ずかしさに顔を真っ赤にして捲れたバスローブを元通りにするのを、男は皮肉いっぱいの目で見つめる。
「まあいい、すぐ警察を呼ぶから」
「け、警察!?」
「当たり前だ。不法侵入に窃盗、そのふてぶてしさは初犯じゃないだろ?」
「ち、違います、私は、ここで休んでいるように言われて」
「いい加減なことを・・」
「きゃああああ、ちょ、ちょっと何しているのよ」
女性の叫び声が聞こえてそちらを見ると、入り口にファッションモデルのような女性が立っていた。
「朱音」
「九條さん」
二人同時にその女性の名前を呼ぶ。
「え?」
弓弦が彼女の名前を呼んだので、男が驚いて彼女の方を見た。
「ちょと、悠、何やっているのよ、大丈夫、藤白さん」
床につっぷしていた弓弦に朱音が駆け寄る。それからギッと男を睨んだ。
「何やっているとは、こっちの台詞だ。予定より一日早く出張から帰ってきたら、知らない女がリビングのソファで寝ていたんだぞ」
「あら、寝てたの」
「すみません。何だか張り詰めてたものが緩んで・・」
「あら、ちょっと、血が出ているじゃない、大変、悠、救急箱持ってきて」
彼女が言うので見ると、両膝が絨毯で擦れて血が滲み出ている。
「そんなものはない」
「じゃあ、今すぐ近くのドラッグストアで買ってきてよ」
九條朱音は自分より頭一つ背が高い男性に向かって、口を挟ませない勢いで命令する。
「お、俺がか?」
「当たり前でしょ、それとも私に行ってこいと? 彼女とあなたをまた二人きりにさせるわけないじゃない」
それから弓弦に「大丈夫? 立てる?」と言いながら立ち上がるのを手助けする。
「ほら、早く!」
「たった今、アメリカから帰ってきたばかりなんだぞ」
などと言いながら彼はドラッグストアへと向かった。
再び元のリビングへと戻り、弓弦をソファに座らせると何があったのか朱音が尋ねた。
「ああ、そう来たか~ごめんね。私が悪かったわ」
彼に泥棒に間違われたことを話すと、彼女は額に手を当てて謝った。
「いえ、九條さんは悪くありません。気にしないでください」
「それにしても人の話も聞かないで悠も大人げないわね。あれで経営者なんてやっているんだから。まあ、うちの旦那が顧問弁護士をやっている限りは、大丈夫だと思うけど」
「あの方、社長さん、何ですか」
どうりで高級タワーマンションの最上階に住み、高額な時計や装飾品をいくつも持っているはずだ。弓弦は座ったまま見える範囲で部屋の中を見渡す。
広いリビングにロフト付き、バーカウンターまで備えた部屋は、きっとパーティなんかも開かれるのだろう。
三枚千円の下着を着ている自分には一生縁がない場所。
それでも昔は、もう少し高級な下着を身につけていた時期もあった。父親の経営する会社が傾き、何とか会社を護るために最初に家を手放した。持ち物も殆ど処分し、髪の毛は自分で切り、化粧品は100円ショップで揃えている。そうまでしても、経営は上向かず、もうどうすることもできない所まで来ていた。
「どうしたの?」
九條朱音が黙り込んだ弓弦に尋ねる。
一本一万円以上するようなシャンプーを使っているのか、胸までの長さの黒髪はつやつやと輝き、肌も弓弦とそれほど変わらない年齢だろうに、きめ細かい。ブランド品に身を固め、身につけている物も高級品だ。
一体なぜここまで住む世界が違う彼女と弓弦が出会ったのか。それは数時間前に遡る。
投げ飛ばされ、弓弦は寝室の床にスライディングのように倒れた。
バスローブの紐が外れて裾が捲れ上がり、下着が丸見えになる。
「色仕掛けをするなら、身につける物はもう少し選んだ方がいいぞ」
三枚千円のパンティを見て男が言う。それでもプラジャーと色を統一しているつもりだ。
「ち、ちが・・」
「それともいつも相手をしている男は、こういうのが趣味なのか」
恥ずかしさに顔を真っ赤にして捲れたバスローブを元通りにするのを、男は皮肉いっぱいの目で見つめる。
「まあいい、すぐ警察を呼ぶから」
「け、警察!?」
「当たり前だ。不法侵入に窃盗、そのふてぶてしさは初犯じゃないだろ?」
「ち、違います、私は、ここで休んでいるように言われて」
「いい加減なことを・・」
「きゃああああ、ちょ、ちょっと何しているのよ」
女性の叫び声が聞こえてそちらを見ると、入り口にファッションモデルのような女性が立っていた。
「朱音」
「九條さん」
二人同時にその女性の名前を呼ぶ。
「え?」
弓弦が彼女の名前を呼んだので、男が驚いて彼女の方を見た。
「ちょと、悠、何やっているのよ、大丈夫、藤白さん」
床につっぷしていた弓弦に朱音が駆け寄る。それからギッと男を睨んだ。
「何やっているとは、こっちの台詞だ。予定より一日早く出張から帰ってきたら、知らない女がリビングのソファで寝ていたんだぞ」
「あら、寝てたの」
「すみません。何だか張り詰めてたものが緩んで・・」
「あら、ちょっと、血が出ているじゃない、大変、悠、救急箱持ってきて」
彼女が言うので見ると、両膝が絨毯で擦れて血が滲み出ている。
「そんなものはない」
「じゃあ、今すぐ近くのドラッグストアで買ってきてよ」
九條朱音は自分より頭一つ背が高い男性に向かって、口を挟ませない勢いで命令する。
「お、俺がか?」
「当たり前でしょ、それとも私に行ってこいと? 彼女とあなたをまた二人きりにさせるわけないじゃない」
それから弓弦に「大丈夫? 立てる?」と言いながら立ち上がるのを手助けする。
「ほら、早く!」
「たった今、アメリカから帰ってきたばかりなんだぞ」
などと言いながら彼はドラッグストアへと向かった。
再び元のリビングへと戻り、弓弦をソファに座らせると何があったのか朱音が尋ねた。
「ああ、そう来たか~ごめんね。私が悪かったわ」
彼に泥棒に間違われたことを話すと、彼女は額に手を当てて謝った。
「いえ、九條さんは悪くありません。気にしないでください」
「それにしても人の話も聞かないで悠も大人げないわね。あれで経営者なんてやっているんだから。まあ、うちの旦那が顧問弁護士をやっている限りは、大丈夫だと思うけど」
「あの方、社長さん、何ですか」
どうりで高級タワーマンションの最上階に住み、高額な時計や装飾品をいくつも持っているはずだ。弓弦は座ったまま見える範囲で部屋の中を見渡す。
広いリビングにロフト付き、バーカウンターまで備えた部屋は、きっとパーティなんかも開かれるのだろう。
三枚千円の下着を着ている自分には一生縁がない場所。
それでも昔は、もう少し高級な下着を身につけていた時期もあった。父親の経営する会社が傾き、何とか会社を護るために最初に家を手放した。持ち物も殆ど処分し、髪の毛は自分で切り、化粧品は100円ショップで揃えている。そうまでしても、経営は上向かず、もうどうすることもできない所まで来ていた。
「どうしたの?」
九條朱音が黙り込んだ弓弦に尋ねる。
一本一万円以上するようなシャンプーを使っているのか、胸までの長さの黒髪はつやつやと輝き、肌も弓弦とそれほど変わらない年齢だろうに、きめ細かい。ブランド品に身を固め、身につけている物も高級品だ。
一体なぜここまで住む世界が違う彼女と弓弦が出会ったのか。それは数時間前に遡る。