年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 居た堪れなくて俯きながら鼻声で「すみません」と答えると、学さんは無言でテッシュを差し出してくれ、それを受け取りながら俺は続けた。

「俺、笑い上戸だって言われてたんですけど、さっちゃんと出会ってから泣き上戸だったって知りました。たんに年とっただけかも知れないですけどね」

 涙を拭きながらそんなことを言うと、学さんは「そんなこと言ったら俺はどうなるんだよ」と言いながら俺のおでこを指で軽く弾く。なんだかその顔は楽しげで、昔からの友人だったような気になってしまう。

「……暁さん。いい人だよな」

 唐突にそう言うと、学さんはまたシートに体を預けた。

「あんな人が親父だったら、俺はもっとまともな人間だったのかもなって思っちまう。酒酌み交わして、くだらない話に付き合ってくれて……」

 そう言うと学さんは外に視線を向けたまま笑う。

「父さんも……きっと嬉しいと思います。もう一人息子ができたような気になってると思いますよ」

 俺がそう返すと、学さんはポツリと「だといいが」と呟いた。

 父さんは、俺の目から見ても人当たりが良くて、誰とでも付き合えるタイプだ。たぶんそこは、俺と父さんの似ている部分。でも、同じだからこそわかる。俺がずっと付き合って行きたい相手を無意識に選んでいるように、父さんもそうしていることを。
 そして、学さんはきっとその一人だ。
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