年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 俺と学さんが帰ると、皆しんみりとした様子で、食べかけのご馳走を前にかしこまっていた。

「なんだお前ら、辛気臭い顔して。ほらほら美紀子、酒出してくれ」

 学さんが部屋に入りながらそう言うと、さっちゃんは顔を上げた。その顔は何故か泣き顔で、俺を見るなり立ち上がると腕に飛び込んできた。

「えっと、さっちゃん? 何かあった?」

 宥めるようにそっと背中を撫でると、さっちゃんは俺の胸に顔を埋めたまま首を振った。

「違うの。睦月さんの顔見たらなんか安心して」

 皆の視線は俺達に注がれているけど、なんとなくさっちゃんと同じように安堵した顔つきになる。

「今日は飲むぞ! 明日香も時間いけるだろ? 暁さんも。飲んでないのか?」

 学さんは元の場所に座ると、父さんのグラスに冷酒を注いでいる。
 その声を聞きながらさっちゃんは顔を上げて俺を見ると「じゃあ……」と驚いたように呟いた。

「咲月、早く座れ。今日は2組も結婚が決まっためでたい日なんだ。宴会するぞ」

 それを聞いて、さっちゃんの目から涙が溢れ落ちる。

「本当に?」
「本当だよ。学さんがそう言ってるんだから。ね? お父さん?」

 茶化すように俺がそう言うと、「だからお父さんって言うなっていったろうが。急に老け込んだ気分になる」と学さんは顔を顰めていた。
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