久しぶりに会った婚約者が、悪役デビューしていました
5 泣きじゃくる
イルバートと別れ、僕はエステルの姿を探して夜会が行われている広間を歩き回った。
ダンスに興じる人々の間をぶつからないようにすり抜けて進む。
すると、壁側に立っているモスグリーンのドレスの令嬢と目が合った。
……ああ、またアイツだ。
僕の気を引くためのグリーンのドレスにうんざりとして、僕はため息をつく。あからさまに嫌そうな顔を見せてやったのに、グリーンのドレスの令嬢はすぐにこちらに近寄ってきた。
「……ガレット」
「フェリクス殿下、お待ちしておりました。ちなみにわたくしはガレットではなく、アレットでございます」
相も変わらず美しいお辞儀を見せるアレット・ミドルダムだが、今は彼女に構っている暇などない。
僕がご機嫌を損ねてしまったエステルと、もう一度ゆっくり話をしたいのだ。
「殿下、お待ちください。お話がございます」
「すまない、また今度」
「いいえ、少しだけでも結構です。殿下と私の婚約の話は、もう立ち消えてしまったのでしょうか……。今日は私と踊って頂けるものとばかり思って、楽しみにしておりましたのに」
「ガジェット。私は今、人を探しているのだ。君の話に付き合っている時間はない」
「フェリクス殿下、わたくしはガジェットではなくアレットです」
「あ、ああ……そうだったか」
◇
その時ちょうど楽団の演奏が止まり、ダンスが終わった。招待客がダンスの相手を交代しようと動き始める。
人ごみにぶつからないようにフロアの端に移動すると、人だかりの向こうからからお尻をフリフリしながら歩いて来る女性が目に入った。
「……エステル!」
「フェリクス殿下!」
迫力満点のド化粧顔が間近に迫る。
僕は勇気を出して彼女に手を差し出した。
もう一度君と向き合いたい。
君はきっと、あの頃のエステルと変わっていないはずなんだ。『中身』は。
「エステル! 話がアリマス」
「お話? ねえ、それよりもフェリクス殿下。こちらの緑色の泥棒ネコさんは、一体どなたなのかしら?」
グリーンのドレスのアレット・ミドルダムのことをキっと睨みつけ、彼女を「泥棒ネコ」と呼んだエステルは、僕の横をすり抜けて尻プリプリでアレットに近付いた。
「泥棒ネコとは……わたくしのことでしょうか? エステル王女殿下」
「そうですわよ! わたくしの元・婚約者であるフェリクス殿下に、横からちょっかいをかけた泥棒ネコちゃんは貴女かしら?」
エステルは両手を胸の前で組み、顎を上げてアレットを睨みつけた。尻もプリプリしているが、胸も大分プリプリしているな。
……おい、ダメだぞ。変なところを見るんじゃない。
「エステル王女殿下、私がフェリクス殿下にちょっかいなどと……誤解でございます」
「そうだ、エステル。オムレットは僕とは全く関係ないんだぞ!」
「フェリクス殿下、私はオムレットではなくアレットですが」
ダンスに興じる人々の間をぶつからないようにすり抜けて進む。
すると、壁側に立っているモスグリーンのドレスの令嬢と目が合った。
……ああ、またアイツだ。
僕の気を引くためのグリーンのドレスにうんざりとして、僕はため息をつく。あからさまに嫌そうな顔を見せてやったのに、グリーンのドレスの令嬢はすぐにこちらに近寄ってきた。
「……ガレット」
「フェリクス殿下、お待ちしておりました。ちなみにわたくしはガレットではなく、アレットでございます」
相も変わらず美しいお辞儀を見せるアレット・ミドルダムだが、今は彼女に構っている暇などない。
僕がご機嫌を損ねてしまったエステルと、もう一度ゆっくり話をしたいのだ。
「殿下、お待ちください。お話がございます」
「すまない、また今度」
「いいえ、少しだけでも結構です。殿下と私の婚約の話は、もう立ち消えてしまったのでしょうか……。今日は私と踊って頂けるものとばかり思って、楽しみにしておりましたのに」
「ガジェット。私は今、人を探しているのだ。君の話に付き合っている時間はない」
「フェリクス殿下、わたくしはガジェットではなくアレットです」
「あ、ああ……そうだったか」
◇
その時ちょうど楽団の演奏が止まり、ダンスが終わった。招待客がダンスの相手を交代しようと動き始める。
人ごみにぶつからないようにフロアの端に移動すると、人だかりの向こうからからお尻をフリフリしながら歩いて来る女性が目に入った。
「……エステル!」
「フェリクス殿下!」
迫力満点のド化粧顔が間近に迫る。
僕は勇気を出して彼女に手を差し出した。
もう一度君と向き合いたい。
君はきっと、あの頃のエステルと変わっていないはずなんだ。『中身』は。
「エステル! 話がアリマス」
「お話? ねえ、それよりもフェリクス殿下。こちらの緑色の泥棒ネコさんは、一体どなたなのかしら?」
グリーンのドレスのアレット・ミドルダムのことをキっと睨みつけ、彼女を「泥棒ネコ」と呼んだエステルは、僕の横をすり抜けて尻プリプリでアレットに近付いた。
「泥棒ネコとは……わたくしのことでしょうか? エステル王女殿下」
「そうですわよ! わたくしの元・婚約者であるフェリクス殿下に、横からちょっかいをかけた泥棒ネコちゃんは貴女かしら?」
エステルは両手を胸の前で組み、顎を上げてアレットを睨みつけた。尻もプリプリしているが、胸も大分プリプリしているな。
……おい、ダメだぞ。変なところを見るんじゃない。
「エステル王女殿下、私がフェリクス殿下にちょっかいなどと……誤解でございます」
「そうだ、エステル。オムレットは僕とは全く関係ないんだぞ!」
「フェリクス殿下、私はオムレットではなくアレットですが」