久しぶりに会った婚約者が、悪役デビューしていました
両国からの結婚式参列者に見守られながら教会で永遠の愛を誓い、ついに誓いのキスをすることになった。僕はエステルにキスをするために、彼女の顔に深くかかるヴェールをそっと上げる。
「エステル……愛して……る……ぅほっ?!」
「ふふ……! あーら、フェリクス殿下! すっとんきょうな声をあげて、一体どうなさいましたの? まさかまさか、緊張なさってます?! 殿下ったらお可愛らしいのね! どうぞ、一思いにココにブチューっといっちゃってくださいませ! オーホッホッホ!!」
ヴェールの下から現れたのは、いつもの可愛らしいエステルではなく、悪役令嬢エステル様の方だった。
……だけど、まあいいや。
緊張をやわらげるためにわざわざ悪役令嬢モードでやって来たのかと思うと、やっぱりエステルは最高に可愛いんだから。
拍手に包まれながら、僕はエステルの口紅と、誓いのキスをした。
「まあ、フェリクス殿下! お口にべっとり口紅がついてらっしゃいますわよ。第二王子ともあろう御方が、随分と滑稽ですのね!」
「エステル、ぜひ今日の夜はノーメイクでお願いしたい……」
「オーホホホホっ! 検討しておいて差し上げますわ! さあ、フェリクス殿下。皆さまがお待ちです。行きますわよ!」
――セイデリアとダンシェルド。
僕たちの結婚式を一目見ようと両国から集まった大観衆の前で手を振るために、悪役令嬢エステル様はいつものように尻をフリフリしながら、歓声の前に手を広げて飛び込んでいった。
(おわり)