久しぶりに会った婚約者が、悪役デビューしていました
八歳年上の兄、王太子アンドリューには、王太子妃との間に既に五人の子がいる。
……上から、女・女・女・女、そして女だ!
五人目の女の子が産まれた時に母上は、アンドリュー兄上にはもはや女の子しか生まれないのではないかと根拠のない心配をし始めた。
そんな不安な気持ちを紛らわせるかのように、こうして僕にも早く婚約者を見つけろとせっついて来るようになったのだ。
つまり、アンドリューの次の後継者作りのために、僕は望まない結婚を強要されているということになる。
妃は、男の子を産む道具なんかじゃないのに。
女の子を産み続けている義姉上にとっても、いい迷惑だ。
男の子を生めという母上の無言の圧力を、さぞかし負担に感じていることだろう。
男の子が生まれなければどこか親戚から養子を取ればいいし、何なら女の子が王太子になったっていいんじゃないか?
そんなことを考えもしないで安易に僕に結婚しろしろ言ってくる両親には、心の底からうんざりだ。
(今の僕をエステルが見たら、随分ひねくれた性格になったと怒るだろうな。昔とはすっかり変わってしまった僕を見たら、彼女は幻滅しないだろうか)
もう会えないはずのエステルとの再会を想像するなんて馬鹿げている。彼女のことを思い出せば思い出すほど、虚しい気持ちになるだけなのに。
結婚だの跡継ぎだの、そんな話題に全く興味が持てなかった僕は、今日の夜会もすっぽかすつもりでいた。しかし、「今日こそは結婚相手を見つけてもらう!」と息巻いた父上から徹底的に動きを監視されて逃げることも叶わず、無理矢理夜会の場に連れ出されてしまったのだった。