夏の終わりにピュアな恋を
けれどあっという間に駅に着いてしまう。
名残惜しいけれど繋いでいる手を解放した。

本当はまだ手を繋いでいたかった。
浩輝とおしゃべりをしたかった。

そんな風に芽生えてしまった気持ちを隠して、茜は精一杯の大人なふりをする。

「ありがとう。おかげで駅まで来れたわ」

ニッコリと微笑めば浩輝もニカっと爽やかな笑みを返す。
その笑顔が眩しすぎて直視できない。

ドキドキと脈打つ鼓動。
この感情が「恋」であると薄々気づいてはいる。

けれどまさか自分が六歳も年下の学生を好きになるなんて、ありえないとも思っていて――。

「茜さん」

名前を呼ばれて僅かに顔を上げる。
絡まった視線がそこはかとなく甘くてくすぐったい。

「俺、茜さんが好きです。彼女になってください」

「……え」

一瞬、自分の心が読まれたのかと茜は警戒したが、僅かに耳を赤くした浩輝は真剣そのもの。
その告白が本物なのだと実感すると嬉しさと共に焦りが襲ってきた。

本当は「私も好き」と言いたいところなのだけど。

茜の中にある懸念が待ったをかける。

「ありがとう浩輝くん。でもよく考えて。私は君より六つも年上なのよ。アラサーだし、もうおばさんの域なんだから」

「歳なんて関係ないよ」

「いや、あるでしょ。早まっちゃダメよ。君はまだ学生なんだからもっと視野を広く持って……」

「今はまだ学生だからそうやって子供っぽく見えるかもしれないけど、あと一年も経てば俺だって社会人になる。そうしたら茜さんと対等の立場になると思わない?」

「社会人一年目で対等だなんてどれだけ自信があるのよ」

「自信は今でもあるよ。虫からも雷からも守ってあげられるのは俺だけだ」

「なっ……!」

確かに、鳴き喚く蝉からも稲光激しい雷からも、茜を気にかけてくれたのは浩輝だけ。苦手なことに気づいて優しい言葉をかけてくれたのも浩輝だけ。
それがどれほど嬉しかったことだろうか。
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