夏の終わりにピュアな恋を
茜は一度深呼吸する。
グダグダと考えているのは自分らしくない。さっさと認めるべきなのだ、自分の気持ちを。

だけど、本当に自分でいいのだろうかと自信が持てない。

今まで年下を好きになったことなんてないし、恋人も年上ばかりだった。だからこれからもきっと、自分はそういう人を恋愛対象に見るのだろうし、そういう人から好かれるのだろうとばかり思っていた。
それに加え、自分の性格もあまり可愛らしいものとは言えない。どちらかといえばサバサバとしていて守ってもらうタイプではないのだが。

「ねえ、私、気が強いってよく言われるんだけど、それでもいいの?」

「うん、いい。そういうとこも含めて好き」

「知らないでしょ、私のこと」

「そうかもしれない。でも一目惚れだし、これから知っていけばいいよね」

「そんな単純な……」

「でも人を好きになるってそういうことでしょ」

茜はぐっと言葉に詰まる。
浩輝の言うことはもっともで、深く知ってから好きになることよりも、好きになってから深く知っていくことの方が多いような気がする。あくまでも、茜の経験上の話だが。

だからこそ、そういう考えが一緒なところもまた好感が持て「好き」に拍車がかかっていく。

「私、先におばあちゃんになっちゃうよ」

「そこまで将来を考えてくれるなら願ったり叶ったりだ」

ニカっと屈託のない笑顔は実に爽やかで、それだけで心を持っていかれそうになる。

「何と言われようと、俺は茜さんが好きだから。俺がバイトの時に来てくれるのがすごく嬉しかった。次はいつ来てくれるのかなって思ってて、バイトたくさん入れたりして……」

揺るがない浩輝の想いが、水が染みていくようにじわりじわりと茜を満たしていく。

自分の気持ちを隠して大人なふりをするのはもう限界だ。
だって茜の方こそ、もうずっと前から浩輝のことを好きだったのだから。

「……あのさ、雷、まだ鳴ってて……怖いから……家まで送ってくれない?」

おずおずと手を差し出すと浩輝はすぐにその手をぐっと握る。

「了解です、お姫様」

嬉しそうに満面の笑みを向けてくる浩輝は本物の王子様みたいで、そんな風に見えてしまったことに茜は動揺を隠せない。
だけどそんな自分をさらけ出すのはなんだか気恥ずかしくてぐっと息を飲む。

「……ちょっと、それ言ってて恥ずかしくないの?」

「茜さんを辱しめようと思って」

「なんでよ?」

「だって可愛いから」

カアアっと頬が染まるのがわかった。
浩輝は悪びれることもなく楽しげに茜を煽る。
だけどそれが妙に嬉しくてくすぐったくて、そしてちょっとばかり対抗心が芽生えて――。

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