ヒルダの約束

　それに、とヒルダはため息をつく。彼女には好きな男性がいた。幼なじみのオットーである。幼なじみというより、まだ幼い頃からよく遊んでくれ面倒を見てくれた優しいお兄ちゃんのような人だ。四つ年上のオットーはヒルダの遠い親戚に当たる。

　子供の頃、オットーと二人で森のはずれにある小川で魚とりをしていたら、足を滑らせてヒルダは川へ落ちてしまった。大した深さではなかったから、落ち着いて行動すればヒルダの身長でも底に足が着いた。しかしびっくりしてパニックになってしまい、暴れるばかりで溺れかけた。すぐに川へ飛び込んだオットーはヒルダを引っ張り上げ、抱きかかえて岸まで運んだ。そしてこう言ったのだ。

「ヒルダ。僕がきみを守る。いつもそばにいるから。ずっとだ。約束する」

　うんとうなずいたヒルダはオットーへ、いつかお兄ちゃんのお嫁さんになりたいと言った。その時のヒルダはまだ六歳だったが、自分が何を言っているのかちゃんとわかった上での真剣な発言だった。オットーに笑い飛ばされてしまったのは、あれからずいぶん経った今でも不満に思っている。