お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
世界を半周して届いた手紙の封を開けたアイリーンは、幾重にも重ねられているはずの便箋と封筒を開ける手を留めた。
本来ならアストン伯爵夫人の封筒の中にシュナイダー侯爵夫人の封筒があり、それを開けるとデロス王家の透かしの入った封筒が出てくるはずなのに、シュナイダー侯爵夫人の封筒の中に、待ち望んでいた兄、ウィリアムからの手紙は入っていなかった。
「どうして!」
便箋を広げてみるが、アストン伯爵夫人からの便箋には、いつもの挨拶と、手紙が届いたので転送するとしか書かれておらず、シュナイダー侯爵夫人からの便箋は、いつも一枚なのに、今回はいつもより長く、三枚もあることにアイリーンは初めて気付いた。
もしかして、便箋や封筒が不足したのかもと、便箋を何度見返しても、そこに見慣れた兄の文字はなかった。
落ち着かないアイリーンの気持ちを察して、二頭がアイリーンの足元にすり寄った。
震える手で便箋を持ち直し、シュナイダー侯爵夫人の手紙をアイリーンは読み始めた。
しかし、そこに書かれていたのは、アイリーンの想像を絶する内容だった。
(・・・・・・・・お兄様が、行方不明・・・・・・・・)
最後に受け取った兄からの手紙には、オーケストラで一緒に演奏していた友人がトラブルに巻き込まれ、助けるためにまとまったお金が必要になったので、緊急の時のために持ち出した宝石と金細工を手放すことになるかもしれないと書かれていた。
それらはあくまで緊急のためのもので、それを手放したからと言ってシュナイダー侯爵邸を追い出されるわけではないし、甥で伯爵家の次男ジョージだと信じている侯爵が兄にひどい仕打ちをするわけもなく、音楽院の学費が払えなくなるなどと言う事もない。
それなのに、シュナイダー侯爵夫人の手紙によれば、兄のウィリアムは突然素行が悪くなり、無断外泊するようになり、侯爵家のフットマンに後を付けさせたら、歓楽街のいかがわしい店に入っていくのを目撃したという。
その後、叔母であるシュナイダー侯爵夫人がその事を追求すると、一度は行動を改めると約束したものの、再び無断外泊するようになり、王太子としての責任ある立場を忘れているのではと侯爵夫人が𠮟責すると、ウィリアムは屋敷を飛び出して無断で外泊した後、もう二日も帰宅していないとのことだった。
六ヶ国同盟の東の端のタリアレーナから西の端にあるエイゼンシュタインを介してデロスに届く手紙は海路と陸路を軽く一月半以上かけて移動する。シュナイダー侯爵家の透かしが入った封筒の消印は二ヶ月前だった。
(・・・・・・・・もしかしたら、お兄様はお母様にも怒られたことがないから、叔母様に怒られてつむじを曲げられたのかもしれない。ほんの少し、叔母様を心配させようと、外泊したのかも・・・・・・・・)
考えてからアイリーンは頭を横に振った。
(・・・・・・・・あり得ないわ。あのお兄さまが、お世話になっている叔母様に心配をかけるような事をするわけがない。一国の王太子として、国と王家、そして、民の前に恥じるようなことは絶対にしないと、お父様の前で約束なさったんですもの。それなのに、その、お兄様が、外泊して帰宅していない・・・・・・・・)
次の瞬間、アイリーンの背筋を冷たいものが流れていった。
(・・・・・・・・まさか、パレマキリアに知れて、刺客が送られたのでは・・・・・・・・)
本来ならアストン伯爵夫人の封筒の中にシュナイダー侯爵夫人の封筒があり、それを開けるとデロス王家の透かしの入った封筒が出てくるはずなのに、シュナイダー侯爵夫人の封筒の中に、待ち望んでいた兄、ウィリアムからの手紙は入っていなかった。
「どうして!」
便箋を広げてみるが、アストン伯爵夫人からの便箋には、いつもの挨拶と、手紙が届いたので転送するとしか書かれておらず、シュナイダー侯爵夫人からの便箋は、いつも一枚なのに、今回はいつもより長く、三枚もあることにアイリーンは初めて気付いた。
もしかして、便箋や封筒が不足したのかもと、便箋を何度見返しても、そこに見慣れた兄の文字はなかった。
落ち着かないアイリーンの気持ちを察して、二頭がアイリーンの足元にすり寄った。
震える手で便箋を持ち直し、シュナイダー侯爵夫人の手紙をアイリーンは読み始めた。
しかし、そこに書かれていたのは、アイリーンの想像を絶する内容だった。
(・・・・・・・・お兄様が、行方不明・・・・・・・・)
最後に受け取った兄からの手紙には、オーケストラで一緒に演奏していた友人がトラブルに巻き込まれ、助けるためにまとまったお金が必要になったので、緊急の時のために持ち出した宝石と金細工を手放すことになるかもしれないと書かれていた。
それらはあくまで緊急のためのもので、それを手放したからと言ってシュナイダー侯爵邸を追い出されるわけではないし、甥で伯爵家の次男ジョージだと信じている侯爵が兄にひどい仕打ちをするわけもなく、音楽院の学費が払えなくなるなどと言う事もない。
それなのに、シュナイダー侯爵夫人の手紙によれば、兄のウィリアムは突然素行が悪くなり、無断外泊するようになり、侯爵家のフットマンに後を付けさせたら、歓楽街のいかがわしい店に入っていくのを目撃したという。
その後、叔母であるシュナイダー侯爵夫人がその事を追求すると、一度は行動を改めると約束したものの、再び無断外泊するようになり、王太子としての責任ある立場を忘れているのではと侯爵夫人が𠮟責すると、ウィリアムは屋敷を飛び出して無断で外泊した後、もう二日も帰宅していないとのことだった。
六ヶ国同盟の東の端のタリアレーナから西の端にあるエイゼンシュタインを介してデロスに届く手紙は海路と陸路を軽く一月半以上かけて移動する。シュナイダー侯爵家の透かしが入った封筒の消印は二ヶ月前だった。
(・・・・・・・・もしかしたら、お兄様はお母様にも怒られたことがないから、叔母様に怒られてつむじを曲げられたのかもしれない。ほんの少し、叔母様を心配させようと、外泊したのかも・・・・・・・・)
考えてからアイリーンは頭を横に振った。
(・・・・・・・・あり得ないわ。あのお兄さまが、お世話になっている叔母様に心配をかけるような事をするわけがない。一国の王太子として、国と王家、そして、民の前に恥じるようなことは絶対にしないと、お父様の前で約束なさったんですもの。それなのに、その、お兄様が、外泊して帰宅していない・・・・・・・・)
次の瞬間、アイリーンの背筋を冷たいものが流れていった。
(・・・・・・・・まさか、パレマキリアに知れて、刺客が送られたのでは・・・・・・・・)