お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
問題は、婚約者であるダリウス王子に対してではなく、自分自身の倫理観の問題だった。
本来、婚約者でもない男性と同じ部屋で暮らすなど、未婚のアイリーンにあってはならないことだ。婚約者であったアルフレッドでさえ、アイリーンの部屋に夜忍び込むときは、事前に合図を送り合い、合意の上で誰にも見られないようにこっそりと忍び込み、誰にも知られぬようにそっと出て行った。
それなのに、アイリーンは今、クルー全員が知っているという有り得ない状況で、カルヴァドスと一つの部屋をシェアしていた。
カルヴァドスは紳士で、アイリーンが着替えるときは必ず外に出てくれたし、決して、必要以上にアイリーンに触れることはなかった。それだけに、アイリーンはカルヴァドスと一緒に過ごすことが当然のように、普通のように思うようになっていた。それが、他人から見れば、未婚の二人が公然と同衾している事になるとは、考えてもいなかったのだ。
(・・・・・・・・どうして、私・・・・・・。でも、カルヴァドスさんとは一緒にいても嫌じゃない。あの謁見の間でダリウス殿下と過ごした時は、不愉快でそばに寄られるのも嫌だったのに、カルヴァドスさんには触れられても嫌じゃない。カルヴァドスさんは、ダリウス殿下みたいにイヤらしい触れ方もしないし、いつも紳士だから・・・・・・。それに、カルヴァドスさんに触れられると安心する。もしかして、私・・・・・・。私・・・・・・カルヴァドスさんの事が好きなんじゃ・・・・・・・・)
考え出しアイリーンは、ドキリとして顔を上げた。
正面からアイリーンを見つめるカルヴァドスの漆黒の瞳、スッと通った鼻筋、優しい口元、卵形の顔にかかる自己主張の激しいオレンジ色の髪の毛。
カルヴァドスの瞳に見つめられるだけでアイリーンは自分の胸が高鳴るのを感じた。
(・・・・・・・・ああ、どうしよう。私、気付かないうちに、カルヴァドスさんを好きになってしまったんだわ。恋など知らないまま、これが自分の運命で、他に選択肢なんてないと、誰も私を愛してはくれなかったし、私も誰も愛さなかったと、全てを諦めてダリウス殿下に嫁ぐつもりだったのに・・・・・・。誰かを好きになったら、自分が苦しいだけだって分かっていたのに・・・・・・。ダリウス殿下との結婚がなかったとしても、エクソシア貴族の子弟で、今は家を出て船乗りをしているカルヴァドスさんとデロスの王女である私が結ばれる道なんて無いのに・・・・・・。そう言って、自分を諦めさせればいいの? 身分が違うから、国が違うから、どんなに愛しても、この旅が終わってタリアレーナに着いたら終わりだと、二度と逢うこともなく、お別れなのだと、そう自分を諦めさせればいいの? バカな私、どうして、どうして恋なんてしてしまったの? ああ、胸が苦しい・・・・・・・・)
「姫さん?」
カルヴァドスが優しく声をかけた。
自分の想いに気付いてしまったアイリーンの瞳が潤んだ。
「姫さん、俺がしたかった大切な話、しても良いかな?」
アイリーンは無言でコクリと頷いた。
「あのさ、俺が姫さんを好きになったのは、俺の勝手だから。俺が姫さんと一緒に居たくて、この部屋をシェアしてタリアレーナまで一緒に行こうって言ったんだ。こんな狭い部屋を姫さんとシェアするなんて、非常識だって俺も分かってる。うちのクルーだって、俺と姫さんが背中合わせで寝てるだけだなんて信じる奴は多分居ない。でも、約束する。絶対に姫さんに変な噂がたつような迷惑はかけない。タリアレーナに着いたら、俺は姫さんを宿まで送って、おとなしく船に戻る。姫さんの婚約者に知られるようなことや、デロスに戻ったときに変な噂が立ったりしないようにすると約束する」
「カルヴァドスさん・・・・・・」
「でも、もし、この船に乗ってるのが辛いなら、エクソシアの港で、客船に乗り換えても良い。エクソシアなら、他の一等航海士はすぐに見つかる。だから、タリアレーナまで、俺も船を降りて、姫さんと一緒に客船に乗り換える。だから、本当のことを言って欲しい」
アイリーンは胸が一杯で、何も答えることが出来なかった。
「それら、最初にも言った通り、姫さんに惚れたのは俺の勝手だから、姫さんがその事を申し訳なく思ったり、心苦しく思う必要はない。俺の勝手で一目惚れして、俺が姫さんを好きで、こうしてタリアレーナまで姫さんと一緒に過ごせるだけで、俺は最高に幸せだから。姫さんが嫌がることもしたくないし、するつもりもない」
アイリーンの頬を涙が伝った。
本来、婚約者でもない男性と同じ部屋で暮らすなど、未婚のアイリーンにあってはならないことだ。婚約者であったアルフレッドでさえ、アイリーンの部屋に夜忍び込むときは、事前に合図を送り合い、合意の上で誰にも見られないようにこっそりと忍び込み、誰にも知られぬようにそっと出て行った。
それなのに、アイリーンは今、クルー全員が知っているという有り得ない状況で、カルヴァドスと一つの部屋をシェアしていた。
カルヴァドスは紳士で、アイリーンが着替えるときは必ず外に出てくれたし、決して、必要以上にアイリーンに触れることはなかった。それだけに、アイリーンはカルヴァドスと一緒に過ごすことが当然のように、普通のように思うようになっていた。それが、他人から見れば、未婚の二人が公然と同衾している事になるとは、考えてもいなかったのだ。
(・・・・・・・・どうして、私・・・・・・。でも、カルヴァドスさんとは一緒にいても嫌じゃない。あの謁見の間でダリウス殿下と過ごした時は、不愉快でそばに寄られるのも嫌だったのに、カルヴァドスさんには触れられても嫌じゃない。カルヴァドスさんは、ダリウス殿下みたいにイヤらしい触れ方もしないし、いつも紳士だから・・・・・・。それに、カルヴァドスさんに触れられると安心する。もしかして、私・・・・・・。私・・・・・・カルヴァドスさんの事が好きなんじゃ・・・・・・・・)
考え出しアイリーンは、ドキリとして顔を上げた。
正面からアイリーンを見つめるカルヴァドスの漆黒の瞳、スッと通った鼻筋、優しい口元、卵形の顔にかかる自己主張の激しいオレンジ色の髪の毛。
カルヴァドスの瞳に見つめられるだけでアイリーンは自分の胸が高鳴るのを感じた。
(・・・・・・・・ああ、どうしよう。私、気付かないうちに、カルヴァドスさんを好きになってしまったんだわ。恋など知らないまま、これが自分の運命で、他に選択肢なんてないと、誰も私を愛してはくれなかったし、私も誰も愛さなかったと、全てを諦めてダリウス殿下に嫁ぐつもりだったのに・・・・・・。誰かを好きになったら、自分が苦しいだけだって分かっていたのに・・・・・・。ダリウス殿下との結婚がなかったとしても、エクソシア貴族の子弟で、今は家を出て船乗りをしているカルヴァドスさんとデロスの王女である私が結ばれる道なんて無いのに・・・・・・。そう言って、自分を諦めさせればいいの? 身分が違うから、国が違うから、どんなに愛しても、この旅が終わってタリアレーナに着いたら終わりだと、二度と逢うこともなく、お別れなのだと、そう自分を諦めさせればいいの? バカな私、どうして、どうして恋なんてしてしまったの? ああ、胸が苦しい・・・・・・・・)
「姫さん?」
カルヴァドスが優しく声をかけた。
自分の想いに気付いてしまったアイリーンの瞳が潤んだ。
「姫さん、俺がしたかった大切な話、しても良いかな?」
アイリーンは無言でコクリと頷いた。
「あのさ、俺が姫さんを好きになったのは、俺の勝手だから。俺が姫さんと一緒に居たくて、この部屋をシェアしてタリアレーナまで一緒に行こうって言ったんだ。こんな狭い部屋を姫さんとシェアするなんて、非常識だって俺も分かってる。うちのクルーだって、俺と姫さんが背中合わせで寝てるだけだなんて信じる奴は多分居ない。でも、約束する。絶対に姫さんに変な噂がたつような迷惑はかけない。タリアレーナに着いたら、俺は姫さんを宿まで送って、おとなしく船に戻る。姫さんの婚約者に知られるようなことや、デロスに戻ったときに変な噂が立ったりしないようにすると約束する」
「カルヴァドスさん・・・・・・」
「でも、もし、この船に乗ってるのが辛いなら、エクソシアの港で、客船に乗り換えても良い。エクソシアなら、他の一等航海士はすぐに見つかる。だから、タリアレーナまで、俺も船を降りて、姫さんと一緒に客船に乗り換える。だから、本当のことを言って欲しい」
アイリーンは胸が一杯で、何も答えることが出来なかった。
「それら、最初にも言った通り、姫さんに惚れたのは俺の勝手だから、姫さんがその事を申し訳なく思ったり、心苦しく思う必要はない。俺の勝手で一目惚れして、俺が姫さんを好きで、こうしてタリアレーナまで姫さんと一緒に過ごせるだけで、俺は最高に幸せだから。姫さんが嫌がることもしたくないし、するつもりもない」
アイリーンの頬を涙が伝った。