お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
かねてからデロス王国を併合したいパレマキリア王国は、ウィリアムが国にいる時から何度となく命を狙ってきた。
パレマキリア王国からすれば、王太子のウィリアムを排し、アイリーンを王太子とした上で、パレマキリア王国のダリウス王太子と結婚させれば、自動的にデロスはパレマキリアの属国となる。そのため、パレマキリアはあの手この手でウィリアムの命を狙い、どこぞの祈祷子を雇って呪詛をかけたという噂まで流れていた。
ある意味、この噂を利用したのが、ウィリアムのタリアレーナへの留学計画だった。パレマキリアの呪詛を受けたウィリアムは晴天の日が一転俄にかき曇り、滝のような雨が降り注いだかのように苦しみ、王宮の庭で倒れると同時に光を恐れて暴れたので、最奥の宮にある、窓一つ無い円形ドームにて療養していることにした。
面会したアイリーンが泣きながらその変わり果てた姿の説明をすると、大臣たちも涙し、ウィリアム奇病の噂は狭い国内で知らない者が居ない程にあっという間に広まった。
それ以来、ウィリアム奇病に関する情報を集めようとするパレマキリアのスパイが王宮の敷地内を徘徊するようになったが、ほぼ全てラフカディオの牙で帰らぬものとなり、奇しくも一命を取り留めた者も、アイゼンハイムの牙によって手足の一部、もしくは、全てを失うほどの怪我をしたため、パレマキリアもそれ以上の諜報活動を自粛するに至った。
それまで、ラフカディオの隠された野生の獣としての強さを目にしたことの無かった王宮の面々は、夜毎に王宮の敷地内に遺され見つかる屍や、その残骸に戦慄したものだった。しかし、アイリーンと一緒にいるときの二頭は、まるで愛玩動物のようにおとなしく、従順で、忠実だったし、先の夜這いならぬ、愛の告白事件で尻を噛まれた伯爵家の子息の怪我がどれほど軽く、二頭が大幅に手加減したかは言うに及ばずと言ったところだった。
アイリーンやラフカディオ、アイゼンハイムもいない、アルフレッド率いる近衛も護衛もないタリアレーナの地で、兄の命が狙われているのではと考えると、アイリーンは居ても立っても居られなかった。
しかし、その事を話せるのはアルフレッドとローズマリーの二人だけだ。万が一にも、病で臥せって居る父王の耳に入ったら、弱っている心臓の具合が更に悪くなることは簡単に想像できた。
「言えない、わよね・・・・・・。二人を心配させるだけだわ」
アイリーンはラフカディオとアイゼンハイムの頭をなでながら呟いた。
アイゼンハイムが心配そうにアイリーンを見上げた。そのアーモンド形の目とちょこんと頭の上に顔を出す両耳の可愛らしさに、アイリーンは優しい笑みを浮かべると、手紙を文机にしまい、叔母であるシュナイダー侯爵夫人に手紙を書くことにした。
当然、ストレートにウィリアムが帰ってきたかと尋ねるわけには行かないので、長々とラフカディオの勇ましさ、アイゼンハイムの愛らしさを書き記し、最後に一言『その後、皆様お変わりはございませんか?』とだけ付け足した。
祈るような気持ちで手紙を託したアイリーンは、一日千秋の思いで一人三役をこなし続けた。
パレマキリア王国からすれば、王太子のウィリアムを排し、アイリーンを王太子とした上で、パレマキリア王国のダリウス王太子と結婚させれば、自動的にデロスはパレマキリアの属国となる。そのため、パレマキリアはあの手この手でウィリアムの命を狙い、どこぞの祈祷子を雇って呪詛をかけたという噂まで流れていた。
ある意味、この噂を利用したのが、ウィリアムのタリアレーナへの留学計画だった。パレマキリアの呪詛を受けたウィリアムは晴天の日が一転俄にかき曇り、滝のような雨が降り注いだかのように苦しみ、王宮の庭で倒れると同時に光を恐れて暴れたので、最奥の宮にある、窓一つ無い円形ドームにて療養していることにした。
面会したアイリーンが泣きながらその変わり果てた姿の説明をすると、大臣たちも涙し、ウィリアム奇病の噂は狭い国内で知らない者が居ない程にあっという間に広まった。
それ以来、ウィリアム奇病に関する情報を集めようとするパレマキリアのスパイが王宮の敷地内を徘徊するようになったが、ほぼ全てラフカディオの牙で帰らぬものとなり、奇しくも一命を取り留めた者も、アイゼンハイムの牙によって手足の一部、もしくは、全てを失うほどの怪我をしたため、パレマキリアもそれ以上の諜報活動を自粛するに至った。
それまで、ラフカディオの隠された野生の獣としての強さを目にしたことの無かった王宮の面々は、夜毎に王宮の敷地内に遺され見つかる屍や、その残骸に戦慄したものだった。しかし、アイリーンと一緒にいるときの二頭は、まるで愛玩動物のようにおとなしく、従順で、忠実だったし、先の夜這いならぬ、愛の告白事件で尻を噛まれた伯爵家の子息の怪我がどれほど軽く、二頭が大幅に手加減したかは言うに及ばずと言ったところだった。
アイリーンやラフカディオ、アイゼンハイムもいない、アルフレッド率いる近衛も護衛もないタリアレーナの地で、兄の命が狙われているのではと考えると、アイリーンは居ても立っても居られなかった。
しかし、その事を話せるのはアルフレッドとローズマリーの二人だけだ。万が一にも、病で臥せって居る父王の耳に入ったら、弱っている心臓の具合が更に悪くなることは簡単に想像できた。
「言えない、わよね・・・・・・。二人を心配させるだけだわ」
アイリーンはラフカディオとアイゼンハイムの頭をなでながら呟いた。
アイゼンハイムが心配そうにアイリーンを見上げた。そのアーモンド形の目とちょこんと頭の上に顔を出す両耳の可愛らしさに、アイリーンは優しい笑みを浮かべると、手紙を文机にしまい、叔母であるシュナイダー侯爵夫人に手紙を書くことにした。
当然、ストレートにウィリアムが帰ってきたかと尋ねるわけには行かないので、長々とラフカディオの勇ましさ、アイゼンハイムの愛らしさを書き記し、最後に一言『その後、皆様お変わりはございませんか?』とだけ付け足した。
祈るような気持ちで手紙を託したアイリーンは、一日千秋の思いで一人三役をこなし続けた。