お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 一月ほどして届いた返事には、タリアレーナ王国の音楽祭の話や芸術祭の話の他、侯爵夫人の育てている薔薇の花について書かれていた。そして最後に『皆変わりなく過ごしていますが、薔薇園に遊びに来ていた白い鳩の姿が見えなくなり、寂しい毎日です』と書かれていた。

(・・・・・・・・ああ、なんて事! お兄様はあれ以来ずっと行方不明なのだわ。きっと、前の手紙に書いてあった楽団の仲間の為に奔走していらっしゃるに違いないけれど、でも、ご無事がどうかも分からないなんて、どうしたらいいの?・・・・・・・・)

 アイリーンは手紙を握りしめた。
 ラフカディオとアイゼンハイムが走り寄り、アイリーンを見上げたが、涙を堪えるのに必死のアイリーンは、二頭の頭を撫でてやることすら出来なかった。

 それから数日、朝議にでても、午後の謁見の場でもアイリーンは精彩を欠き、その疲労困憊ぶりにとうとう大臣達がアイリーン抜きの枢密院特別会議を設け、一人三役をこなすアイリーンの為の臨時休日を設けることを決定し、翌朝の朝議で提出した。しかしアイリーンは、提出された臨時休日の案に対しても特に質問するでなく、大臣達がすでに熟慮の上であり、一切の不具合は生じないと言う言葉に頷き、深く考えることなくそれを承認した。そして、午後の謁見での調停、仲裁の全てをアイリーンが行うのではなく、枢密院が行うとする案も同時に承認された。これにより、国民に近く、望めば誰でも国王や女王に謁見することができる民に開かれた王室の幾つかの定型行事に変更が加えられた。

 すなわち、複数の王族並びに王位継承者、または、絶対君主である国王、もしくは、女王の職務を単独で複数兼任しなくてはならない場合に於いて、その多くの固定的な職務を枢密院が代行し、最終決定のみを行うとする。但し、いかなる場合においても、外交の場での裁決権を枢密院は有しない。そして、この法案は直ちに施行されるというものであった。
 一見すると、まるでアイリーンの権利を枢密院がはく奪したかのような決議であったが、これがひとえに、疲労困憊するアイリーンの健康をおもんぱかっての事であることは、王太子派の大臣たちも、アイリーン派の大臣たちも皆、理解していた。
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