お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「姫様?」
 走り込んできたローズマリーに、アイリーンは言葉にならない声を上げて呆然としたように左手で太陽を指さし、右手で暖炉の上の時計を指さした。
「おはようございます、姫様。良くお休みになられましたか?」
 問いかけるローズマリーの横をすり抜けたラフカディオが居室の窓に付けられた仕掛けを使い、窓を開けてテラスへと出て行った。
 これは、ラフカディオ、アイゼンハイムとアルフレッドのお約束で、室内に不振人物はいないと言うことを知らせる行為だった。
「お前は、本当に賢いな。お前もアイゼンハイムも、そんじょそこらの人間よりも頭が良いからな・・・・・・」
 アルフレッドは誉めたつもりだったが、ラフカディオは馬鹿にするなとでも言いたげな表情をみせ、空を袈裟斬りにでもするように、鋭く尻尾を振り下ろすと、すぐに室内へと戻っていった。


「ど、ど、どうしよう。朝議が! もうすぐ謁見の時間なのに・・・・・・」
 やっと言葉を発せるまでに落ち着いたアイリーンは、頭を抱えてローズマリーに言うでもなく、自問するように呟いた。
「姫様、内大臣より、こちらを預かっておりますわ」
 ローズマリーは言うと、丁寧に巻かれリボンで結ばれた、一見、厚紙のように見える羊皮紙をアイリーンに手渡した。
 それは、昨日、アイリーンが深く考えもせずに承認した法案を記したもので、添えられている手紙には、内大臣の文字で『ゆっくりお体をお休めください。このままでは、姫様も倒れてしまわれます』と書かれていた。
「えっと、ローズ。そうしたら、今日は、お休みってこと?」
 アイリーンは呟いてから、頭を横に振った。
「ダメよ。海の女神の神殿での祈りがあるわ」
「姫様、大神官より、姫様の祈りは当面の間は週に一度で構わないとの連絡を戴きました」
 ローズマリーの言葉に、アイリーンの瞳に光が宿った。
「じゃあ、もう少しゆっくり寝て、お茶をして、庭でラフディーとアイジーと遊んでも良いの?」
「はい。もちろんでございます」
 ローズマリーが笑顔で答えると、アイリーンは幸せそうな笑みを浮かべて再びベッドに横になった。
 護衛のアルフレッドに業務連絡を伝えたラフカディオは、ポスンとベッドに飛び乗ると、アイリーンの足元に腹這いになり、アイリーンの事を見つめた。
「聞いた? ラフディーにアイジー、今日はお休み何ですって!」
 アイリーンはもう一度よこになると、二頭の頭をなでながら、すぐに眠りに落ちていった。


< 14 / 317 >

この作品をシェア

pagetop