お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 部屋には、既にドレスが二着と、細々としたものが届けられており、二着のドレスはそれぞれトルソーにかけられて皺にならないように置かれていた。
「ちょうど良いタイミングだったな」
 カルヴァドスが言い終わらぬうちに、扉がノックされ来客が訪れた。
「アイリ、彼はコベントリーと言って、この街では知らないものがいない宝石商なんだ。さあ、見せてくれるかい?」
 カルヴァドスの紹介を受け、コベントリーは鞄の金具をカチカチと音を立てていじった。次の瞬間、まるで魔法のように鞄が広がり、左右三段ずつの陳列棚に変化した。
「こちらが指輪、こちらがブローチ、そして、こちらがネックレースでございます」
 眩い光を放つ宝石類をカルヴァドスは真剣な眼差しで見つめた。
「アイリ、この指輪をして見せてくれるかい?」
 渡されたのは、ダイヤモンドのソリティアのリングだった。
 どう見ても、それは婚約指輪としか言いようのない指輪だったが、婚約者の居るアイリーンが婚約者以外から貰った指輪を左の薬指にはめることはできないので、アイリーンは左手の中指にはめようとした。しかし、カルヴァドスかスッとアイリーンの手を取り、指輪を薬指にはめた。
「コベントリー、少し大きいようだ」
「では、こちらのサイズをお試し下さい」
 緩い指輪をぬくと、少し小さめの指輪がすぐに薬指にはめられる。
「うん、もう少し小さいのは?」
「では、こちらを・・・・・・」
 指輪が替わり、再び指にはめられた。
「どうだい、アイリ。キツくないかい?」
 奥まで入った指輪は、余裕で動く大きさだった。
「大丈夫です」
「そうか。コベントリー、サイズを記録しておいてくれ。必要になるときまで」
「かしこまりました」
 コベントリーはメモを取り、素早くカルヴァドスが外した指輪を受け取った。

(・・・・・・・・そうか、これが、カルヴァドスさんからの、最初で最後の一日のプレゼントなんだわ。こうして、まるで、婚約指輪をいつか買う恋人同士のような甘い時間を私に味合わせてくれたんだわ。そんな日は、永遠に来ないと分かっているのに・・・・・・・・)

 アイリーンはうっとりとした瞳で指輪を見つめた。
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