お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
その日、お茶の時間まで二度寝したアイリーンは、ブランチどころか朝食、昼食、お茶兼用のクリームティーを庭でゆっくりと楽しんだ。
一年を通して温暖で、四季らしい季節の変化のないデロスでは、いつものことではあるが、暖かい陽の光の下、ゆったりと庭でお茶をするのは、二年半近く前に兄のウィリアムが留学に旅立つ前が最後だったので、アイリーンだけでなく、ラフカディオもアイゼンハイムもご機嫌で走り回ってはアイリーンのもとに戻り、ゴロンと寝転がって愛嬌を振りまいては、二頭で仲良くグルーミングしたり、アイリーンのドレスの裾ににおい付けするようにすり寄ったりして喜びを表現した。
しかし、近付く足音と気配に気付くと、二匹は起き上がり定位置について警戒を始めた。
一瞬、ピリッとした空気が流れたが、二匹がすぐに警戒を解いたので、アイリーンは近付いて居るのがアルフレッドだと分かった。
朝は隊服を身に付けていたアルフレッドだったが、今は伯爵家の嫡男らしい優雅な服装だった。
空の青さを写したようなブルーのコートにあしらわれた銀糸の刺繍、真っ白なトラウザーの腰もとに吊されたサーベルが王宮内で帯剣を許された騎士であることを示していた。
少し緩めに合わせられたシルクのブラウスの首元を飾るタイには伯爵家の紋章を抱くイルカのカメオが留められていた。このカメオは、婚約の時にアイリーンが贈った品だ。
「フレド、今日は隊服ではないのですね」
驚いたように言うアイリーンに、ラフカディオが再び尻尾を袈裟斬りするように動かした。
これは、ラフカディオの『こいつ生意気』と言う意味を持つ態度だったが、それを知るのはアイリーンだけだった。
「我が愛しの姫。姫がお休みと聞き及び、遅ればせながら私も午後の休みをとって参りました。お茶の席にご一緒しても?」
「ええ、もちろん。隣に・・・・・・」
アイリーンの言葉に、二頭がシンクロしたようにそっぽを向く。
アイゼンハイムの目がやや三角に見えるのは『こいつ図々しい奴なんだ』というアイゼンハイムの意思表示だが、分かるのはアイリーンだけだ。
「あ、えっと、では向かいに。ローズ、フレドにお茶を・・・・・・」
「かしこまりました」
ローズマリーは笑顔で答えた。
椅子に座ると、アルフレッドはスッと手を伸ばし、これ見よがしな婚約指輪のはめられたアイリーンの左手を握った。
「アイリ、これで、二人っきりの時間がもてるようになりますね」
そう言うアルフレッドも、それが絶対に二人っきりではなく、二人と二匹の時間であることは理解していた。
「ああ、フレド。人目がありますわ・・・・・・」
恥じらうようにアイリーンが言っても、アルフレッドは握った手を放さなかった。
「私たちは婚約しているのです。手を握っている所を見られても、問題はないでしょう? それに、アイリも婚約を交わした十六の子供ではないのですから」
アルフレッドはクスリと笑って見せた。
「もう、フレドは意地悪ね。いつまでも私を子供扱いして・・・・・・」
「そんな事はありませんよ。アイリも十八。もう立派な大人です」
アルフレッドが目を細めて光り輝くストロベリーブロンドの髪と透けるように白いアイリーンの肌、大きな瞳と愛らしい唇を見つめた。
「フレド、そんなに見つめられると、恥ずかしいですわ」
アイリーンが言っても、アルフレッドは手を離さず、アイリーンの手に口付けた。
一年を通して温暖で、四季らしい季節の変化のないデロスでは、いつものことではあるが、暖かい陽の光の下、ゆったりと庭でお茶をするのは、二年半近く前に兄のウィリアムが留学に旅立つ前が最後だったので、アイリーンだけでなく、ラフカディオもアイゼンハイムもご機嫌で走り回ってはアイリーンのもとに戻り、ゴロンと寝転がって愛嬌を振りまいては、二頭で仲良くグルーミングしたり、アイリーンのドレスの裾ににおい付けするようにすり寄ったりして喜びを表現した。
しかし、近付く足音と気配に気付くと、二匹は起き上がり定位置について警戒を始めた。
一瞬、ピリッとした空気が流れたが、二匹がすぐに警戒を解いたので、アイリーンは近付いて居るのがアルフレッドだと分かった。
朝は隊服を身に付けていたアルフレッドだったが、今は伯爵家の嫡男らしい優雅な服装だった。
空の青さを写したようなブルーのコートにあしらわれた銀糸の刺繍、真っ白なトラウザーの腰もとに吊されたサーベルが王宮内で帯剣を許された騎士であることを示していた。
少し緩めに合わせられたシルクのブラウスの首元を飾るタイには伯爵家の紋章を抱くイルカのカメオが留められていた。このカメオは、婚約の時にアイリーンが贈った品だ。
「フレド、今日は隊服ではないのですね」
驚いたように言うアイリーンに、ラフカディオが再び尻尾を袈裟斬りするように動かした。
これは、ラフカディオの『こいつ生意気』と言う意味を持つ態度だったが、それを知るのはアイリーンだけだった。
「我が愛しの姫。姫がお休みと聞き及び、遅ればせながら私も午後の休みをとって参りました。お茶の席にご一緒しても?」
「ええ、もちろん。隣に・・・・・・」
アイリーンの言葉に、二頭がシンクロしたようにそっぽを向く。
アイゼンハイムの目がやや三角に見えるのは『こいつ図々しい奴なんだ』というアイゼンハイムの意思表示だが、分かるのはアイリーンだけだ。
「あ、えっと、では向かいに。ローズ、フレドにお茶を・・・・・・」
「かしこまりました」
ローズマリーは笑顔で答えた。
椅子に座ると、アルフレッドはスッと手を伸ばし、これ見よがしな婚約指輪のはめられたアイリーンの左手を握った。
「アイリ、これで、二人っきりの時間がもてるようになりますね」
そう言うアルフレッドも、それが絶対に二人っきりではなく、二人と二匹の時間であることは理解していた。
「ああ、フレド。人目がありますわ・・・・・・」
恥じらうようにアイリーンが言っても、アルフレッドは握った手を放さなかった。
「私たちは婚約しているのです。手を握っている所を見られても、問題はないでしょう? それに、アイリも婚約を交わした十六の子供ではないのですから」
アルフレッドはクスリと笑って見せた。
「もう、フレドは意地悪ね。いつまでも私を子供扱いして・・・・・・」
「そんな事はありませんよ。アイリも十八。もう立派な大人です」
アルフレッドが目を細めて光り輝くストロベリーブロンドの髪と透けるように白いアイリーンの肌、大きな瞳と愛らしい唇を見つめた。
「フレド、そんなに見つめられると、恥ずかしいですわ」
アイリーンが言っても、アルフレッドは手を離さず、アイリーンの手に口付けた。