お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 音楽を愛し、芸術に造詣の深かった兄のウィリアムは、ヴァイオリンの弓を持つ手で剣を握りたくないと、幼い頃から剣を左で持っていた成果で、成人する頃には二刀流の剣豪とまで呼ばれるほどの剣士に成長していた。
 親友のアルフレッドも、ウィリアムとの練習で二刀流を強いられ、今はウィリアム程ではないが二刀流を操る剣豪の名を轟かせている。
 だからこそ、ウィリアムはアルフレッドにアイリーンを任せて旅立ったのだが、アイリーンを守るアルフレッドとローズマリーの間に恋が芽生え、愛という名の大輪の花が咲き誇ることまでは予測がつかなかったのは当然と言えば、当然のことだった。
 宮廷と女性ばかりの海の女神の神殿の往復ばかりのアイリーンにとって、恋愛も結婚も遠い世界の出来事のようであったが、アイリーンに仕え、社交界の結婚年齢適齢期に入った娘を持つ父の焦りを知っているローズマリーとでは、結婚に対する考え方も、心構えも大きく異なってくる。

 ローズマリーは、幼い頃はアイリーンの話し相手として王宮に参内し、ウィリアム、アルフレッド、アイリーン、ローズマリーの四人は、侍従泣かせのカルテットだった。
 幼少期から、ウィリアムはローズマリーと、アルフレッドはアイリーンとペアーを組み、ありとあらゆる悪戯とお転婆の限りを尽くした。
 四人の関係が変わったのは、ローズマリーではウィリアムの妃として身分が低すぎると言う声が大臣達からあがり、ローズマリーの地位がアイリーンの話し相手から王女付きの侍女に変わった頃からだった。

 ウィリアムは正式にローズマリーと結婚の意志が無いことを表明すると共に、留学に向けてアイリーンとアルフレッドの婚約を推し進めた。
 そして、ウィリアムが旅立って一年が経つ頃、アルフレッドとローズマリーの関係に変化が現れた。
 疲れ切り、アルフレッドと過ごす時間を休憩に当てたいアイリーンの頼みを聞き、ローズマリーがアイリーンのフリをしてアルフレッドと過ごす様になったからだ。
 強い日差しを避けるためと、ボンネットをかぶり日傘を差したローズマリーの姿は、遠目にはアイリーンそのものだった。
 人の少ない王宮奥の庭やバラ園、そしてお忍びで街へ足を向けたりと、時を重ねるうちに恋人のフリだった二人の仲は、本当の恋人同士になっていた。


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