お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「アイリ?」
突然黙り込み、俯いたアイリーンにアルフレッドが声をかけた。
「な、何、フレド・・・・・・」
少しの声の震えに二頭が敏感に反応した。
ギロリとアルフレッドを睨むラフカディオと心配げにアイリーンの脚に手をかけてアイリーンの顔を望み込むアイゼンハイムは、無言でアイリーンの命令を待っている。しかし、次の瞬間、再び二頭の耳がピクリと動いて更なる警戒態勢に入った。
「結婚式には、やはりウィリアムお兄様にも出席していただきたいのです。それに、今のまま私が降嫁してしまったら、お父様が寂しがられますわ」
話の続きを何とか繋いだアイリーンに、アイゼンハイムとラフカディオがいつもの無害なペットのフリを始めた。
「外は、何かと人の耳がありますから、アイリ、部屋でゆっくりとくつろぎませんか?」
少し色っぽい瞳で見つめるアルフレッドに、アイリーンはドキリとした。
「まあ、フレドったら。でも、そうね、ずっと働き詰めであなたと過ごす時間が少なかったから、ゆっくりお話がしたいわ」
「では、参りましょうか」
アルフレッドに手を取られ、アイリーンはゆっくりと芝生を歩いて進んだ。
すると、二頭がアイリーンを誘うように走り出した。
アイリーンの目の前でジャンプしてみせるラフカディオに、アイリーンはアルフレッドの手を離すとドレスのスカートを翻して走り出しラフカディオに合流した。その後ろからアイゼンハイムがジャンプして合流した。
ヒールのある靴を脱ぎ捨て、シルクの靴下だけで芝生の上を二頭と走るアイリーンは心からの笑顔を浮かべ、ラフカディオを捕まえようとしては、スルリと逃げるラフカディオを追いかけながら、フェイントをかけて、すぐ横を走るアイゼンハイムを抱きしめた。
瞬間、バランスを崩したアイリーンがアイゼンハイムと共に芝生の上にゴロリと寝転がると、すぐにラフカディオが取って返しアイリーンの安全を確認した。くるりと回転して起き上がったアイゼンハイムはここぞとばかりにアイリーンの顔をペロペロと舐めて親愛の情を示した。
アイリーンの行動は、王女の行動としては決して褒められたものではなかったが、この二年、ウィリアムの代わりに遊ぶ時間を惜しんで公務に時間を割き、直近の三ヶ月は一人三役で息をつく暇もなかったのだから、恋を夢見ておかしくない十八の乙女が王宮と神殿の往復、話し相手は侍女のローズマリーにアルフレッド、そして、二頭だけの孤独な日々を過ごしていたことを考えると、久しぶりの自由で、アルフレッドもローズマリーも、アイリーンの行動を咎めるつもりはまっまくなかった。
久しぶりに陽の光を浴び、寄り添う二頭と芝生の上に寝転がったアイリーンは、両手で二頭の毛皮を撫でながら、こんなに自由な時間を過ごすのはいつぶりだろうかと、心からリラックスした。
心配するローズマリーに、アルフレッドは自分が見守ると合図を送り、ローズマリーは風呂と着替えの準備をするために部屋に戻っていった。
しばらく心地よい風に吹かれ、最愛の二頭に挟まれるようにして横になっていたアイリーンは、静かな寝息を立て始めた。
身も心もボロボロになるほどに疲れ果て、唯一の心の支えであった兄ウィリアムの失踪の知らせを一人で胸に抱えたアイリーンの寄る辺ない、難破船のような心の内を知っているのは、奇しくも隣に寄り添う二頭だけだった。
☆☆☆
突然黙り込み、俯いたアイリーンにアルフレッドが声をかけた。
「な、何、フレド・・・・・・」
少しの声の震えに二頭が敏感に反応した。
ギロリとアルフレッドを睨むラフカディオと心配げにアイリーンの脚に手をかけてアイリーンの顔を望み込むアイゼンハイムは、無言でアイリーンの命令を待っている。しかし、次の瞬間、再び二頭の耳がピクリと動いて更なる警戒態勢に入った。
「結婚式には、やはりウィリアムお兄様にも出席していただきたいのです。それに、今のまま私が降嫁してしまったら、お父様が寂しがられますわ」
話の続きを何とか繋いだアイリーンに、アイゼンハイムとラフカディオがいつもの無害なペットのフリを始めた。
「外は、何かと人の耳がありますから、アイリ、部屋でゆっくりとくつろぎませんか?」
少し色っぽい瞳で見つめるアルフレッドに、アイリーンはドキリとした。
「まあ、フレドったら。でも、そうね、ずっと働き詰めであなたと過ごす時間が少なかったから、ゆっくりお話がしたいわ」
「では、参りましょうか」
アルフレッドに手を取られ、アイリーンはゆっくりと芝生を歩いて進んだ。
すると、二頭がアイリーンを誘うように走り出した。
アイリーンの目の前でジャンプしてみせるラフカディオに、アイリーンはアルフレッドの手を離すとドレスのスカートを翻して走り出しラフカディオに合流した。その後ろからアイゼンハイムがジャンプして合流した。
ヒールのある靴を脱ぎ捨て、シルクの靴下だけで芝生の上を二頭と走るアイリーンは心からの笑顔を浮かべ、ラフカディオを捕まえようとしては、スルリと逃げるラフカディオを追いかけながら、フェイントをかけて、すぐ横を走るアイゼンハイムを抱きしめた。
瞬間、バランスを崩したアイリーンがアイゼンハイムと共に芝生の上にゴロリと寝転がると、すぐにラフカディオが取って返しアイリーンの安全を確認した。くるりと回転して起き上がったアイゼンハイムはここぞとばかりにアイリーンの顔をペロペロと舐めて親愛の情を示した。
アイリーンの行動は、王女の行動としては決して褒められたものではなかったが、この二年、ウィリアムの代わりに遊ぶ時間を惜しんで公務に時間を割き、直近の三ヶ月は一人三役で息をつく暇もなかったのだから、恋を夢見ておかしくない十八の乙女が王宮と神殿の往復、話し相手は侍女のローズマリーにアルフレッド、そして、二頭だけの孤独な日々を過ごしていたことを考えると、久しぶりの自由で、アルフレッドもローズマリーも、アイリーンの行動を咎めるつもりはまっまくなかった。
久しぶりに陽の光を浴び、寄り添う二頭と芝生の上に寝転がったアイリーンは、両手で二頭の毛皮を撫でながら、こんなに自由な時間を過ごすのはいつぶりだろうかと、心からリラックスした。
心配するローズマリーに、アルフレッドは自分が見守ると合図を送り、ローズマリーは風呂と着替えの準備をするために部屋に戻っていった。
しばらく心地よい風に吹かれ、最愛の二頭に挟まれるようにして横になっていたアイリーンは、静かな寝息を立て始めた。
身も心もボロボロになるほどに疲れ果て、唯一の心の支えであった兄ウィリアムの失踪の知らせを一人で胸に抱えたアイリーンの寄る辺ない、難破船のような心の内を知っているのは、奇しくも隣に寄り添う二頭だけだった。
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