お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「お兄様、私は、これでもデロスの姫巫女でございます。ご冗談はおやめください」
 アイリーンの言葉に、ウィリアムは『疑って悪かった』と謝ったが、三年前とは違い、体つきも女性らしくなり、いつも使っている薔薇の香水が、かつてはほんのりと可愛さを醸し出していたのに、今ではその香りが優しく微笑むだけで男の心を掴んで離さないような、色気をアイリーンから感じさせる様になっていた。
「ところで、大切な話しをまだ聞いてなかったな」
 ウィリアムの言葉にアイリーンは首を傾げた。しかし、しっかりと握られた兄の手は、アイリーンには鎖のように感じられた。
「大切なお話しですか?」
 何のことか分からないと言った様子で答えると、ウィリアムはアイリーンの瞳をまっすぐに見つめた。
「伝手もコネもないのに、どうやってエクソシアのクーリエ船にのせて貰ったのだ?」
「それは、直談判したと、お話ししたでしょう?」
「アイリ、直談判って、いったいどこで、どうやって?」
 ウィリアムの瞳は獲物を見つけた猛禽類の様に鋭かった。
「それは、フレドが教えてくれた酒場を回って、貨物船の船長さん達に御願いしたのです。何も悪いことはしておりません」
「あのフレドが、風紀の悪い酒場街に、そなたを一人で行かせたというのか?」
 ウィリアムは、痛みの激しい右手の拳を思わずぎゅっと握り締め、さらなる痛みに額にしわを寄せた。
「あの、フレドが・・・・・・。婚約を解消したら、お前の身を守るのは自分の仕事ではないというのか・・・・・・」
「違います、お兄様。私が、ローズに身代わりを頼んで、城を抜け出したんたんです」
 慌ててアイリーンは否定したが、ウィリアムは聞く耳を持たなかった。
< 262 / 317 >

この作品をシェア

pagetop