お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「あのフレドがローズとそなたを見間違う筈がなかろう!」
「でも、ラフディーとアイジーが部屋の中にいたら、フレドは窓の外からしか見ることができないですから。ローズが布団を被っていたら、さすがのフレドにも分かりませんわ」
「まあ、確かに、あの二頭が居れば・・・・・・」
「もう! 二頭じゃなくて、二人ですわ!」
 アイリーンの言葉にウィリアムが笑みをこぼした。
「全く、そなたは幾つになっても・・・・・・。それで、酒場巡りはどうなったのだ?」
「大変でしたわ。すごく失礼な方が多くて」
 アイリーンの失礼という言葉に、下品でいやらしいという意味が込められていることはウィリアムにはすぐにわかった。
「それで、助けてくれた方が紹介してくれた酒場に行ったら、門前払いをされそうになったのだけれど、その助けてくれた方が、実はその船の一等航海士で、乗せてくれるように一緒に船長に頼んでくださったの」
「だが、まだ、エクソシアでは縁起を担いで、船に女性を乗せるのを嫌がる船長も多いだろう?」
「そうなのですか? でも、直ぐに乗せてくださいましたわ」
 実は、土下座もしたし、色々な王女としては許されない行為をして頼み込んだのは事実だったが、それをすべて兄に話すつもりはアイリーンにはなかったし、万が一にも話せば、妹に土下座させたような船長の船には乗らないと、ウィリアムが帰国の際に大海の北斗七星号に乗ることを拒否する可能性も考えられた。
「何か、見返りを求められなかったか? そなたが清い体だということはわかっている。だが、三年前に比べれば、もう立派なレディ、私が兄でなかったら、一瞬で心を奪われてしまうほど美しく可愛らしい。そんな娘をただで船に乗せる船長がいるだろうか? 普通、何か見返りを求めるだろうと私は思うが・・・・・・」
「それでしたら、大丈夫でございます。私を助けてくださった方が、恋人のふりをしてくださることになって、船のクルーの皆さんには恋人と紹介されたので、とても親切にしていただきました。本当は、料理と繕い物くらいはできますとお願いしたのですが、ジャガイモを剥いたら、食べるところがなくなるから厨房には来るなと叱られ、繕い物をしたら、刺繡をして欲しいんじゃない。ぱっぱと繕って、次のものを繕ってほしいのに、これじゃ役に立たないといわれて、結局、文字を教えることになりました」
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