お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「文字を教える?」
 ウィリアムは楽しそうに話すアイリーン問い返した。
「聞いたら、皆さん学校に行かずに小さいころから働いていらして、話はできても文字は読めなかったり、書けなかったり、それで、入港が近くなると、代筆の頼みが読み書きできる人に沢山集中するとのことで。それで、私が文字を教えたのです。ほとんどがエクソシアの方でしたけれど、パレマキアやタリアレーナの方もいらしたので、それぞれ、お手本を作って、よく使う言葉や、よく見る言葉を皆さんに教えていました」
「食事は?」
「船長や皆さんたちと、ご一緒させていただきました」
「どこで寝起きしていたんだ?」
 来るなとは思っていた質問だったが、実際に問いかけられると、一瞬心臓が縮み上がるような感じがした。
「私は、一等航海士の方の部屋のカウチに・・・・・・」
「なんだと!」
 ウィリアムが声を荒げた。
「未婚の娘が、見ず知らずの男と同じ部屋で寝起きしていたというのか?」
「それは、他のクルーの方に恋人だと説明した手前、別々の部屋というのはおかしいですし。でも、別々にベッドとカウチで別れて休み、着替えの時はもちろん入れ替わりで、お互いに相手の着替えを見ることのないようにしておりました」
 アイリーンが説明すると、ウィリアムは大きなため息をついた。
「なぜアイリが私を探しに来た? フレドが来るのが筋だろう! 他に好きな女を作り、アイリをそんな危険な目に合わせるなんて、万が一のことがあったら、もしものことがあったらどうするつもりなんだ! 男と違って、女性の場合は取り返しのつかないことなんだぞ。それを・・・・・・」
 ウィリアムは怒りのやり場に困り、動く左手の拳で自分の足を何度も叩いた。
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