お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 それぞれが席に着くと、アルフレッドは心配げにアイリーンを見つめながらも、閣議の間の外へと出て行った。
 例え、アイリーンの婚約者とは言え、アルフレッドが閣議の間に残ることは許されないからだ。
「まず、確認したいことがあります」
 アイリーンが口を開くと、居並ぶ大臣達は皆、アイリーンの事を見つめた。
「ダリウス殿下が話していた、再三にわたる、私と殿下の婚約の話とは何ですか?」
 アイリーンの問いに、内大臣が過去の小競り合いの度に、アイリーンとダリウスの婚約の話が出ていたこと、和平条約の締結には二人の婚約が条件として必ず付帯しており、国王は和平条約を締結するのを断念していた事などを掻い摘まんで説明した。
「それでは、まるで、ダリウス殿下が私との婚姻を望んでいるからパレマキリアが毎年のように国境線で小競り合いを起こしていたように聞こえるではありませんか」
 アイリーンが言うと、居並ぶ大臣達が視線を泳がせた。
「姫、その通りでございます」
 内大臣の言葉に、アイリーンは言葉を失った。
「陛下は、絶対に姫はパレマキリアに嫁がせず、降嫁させると心にお決めに成られており、過去の小競り合いの度に、和平条約をにおわせるパレマキリアの要望をはねつけていらっしゃいました」
 アイリーンにしてみれば、何時もは自国の半島にすぎないとデロスをバカにするパレマキリアが、何度となく自分や兄を自国に招待しては贅沢の限りを見せつける理由が分からなかったが、もし、それが自分とダリウス王子との結婚を前提とした物であったなら、納得出来ると今更ながらに理解した。
 パレマキリア王宮でのダリウス王子は、大国の王子そのもので、豪華な装いに、貴族の娘達から熱い視線を送られていた。
「今まで、今回のような脅しがあったことは?」
 アイリーンの問いに、大臣達は無言で頭を横に振った。
「今までは、国境線での通行税の値上げなどが別に提示されておりました。ですから、陛下は通行税の値上げを承諾し、姫の結婚話を回避されて参りました。しかし此度は、ダリウス殿下のお歳を鑑みての退路のない条件かと思われます」

(・・・・・・・・そう言えば、ダリウス殿下はお兄様より年上だったはず。そうなれば、いい加減結婚したいと言うことなのね。でも、なぜ私にこだわるの? パレマキリア程の国ならば、私を妻に迎えるより、もっと対等な関係の国から妻を迎える方が良いはずなのに。お父様の病気を知っての事ならば理解は出来るけれど、以前からって、どういうこと?・・・・・・・・)

「姫、発言をお許しいただけますか?」
 軍務大臣の言葉に、アイリーンは無言で頷いた。
「以前より、ダリウス殿下が姫にご執心な事は、皆存じ上げております。ここは、姫のご意志を伺わせていただきたく存じます。陛下が取り決められたとおり、近衛のアルフレッド殿と結婚されるのか、それとも、ダリウス殿下に嫁がれるのか」
 視線が一気にアイリーンの上に注がれた。

(・・・・・・・・どうしよう。フレドとは結婚できない。フレドにはローズマリーが居るのだから。でも、お兄様の安否の分からない今、もし、私がダリウス殿下に嫁いで、お兄様が戻られないような事があったら、国そのものがパレマキリアの統治下になってしまう・・・・・・・・)

「皆様方、待たれよ!」
 内大臣が声を上げた。
「ウィリアム殿下がご病気の今、姫は次の女王陛下と成られる方、ここでパレマキリアに嫁ぐことを安易に承諾すれば、パレマキリアの思うつぼ。デロスは独立国ではなくなってしまうのですぞ!」
 このまま、アイリーンがおとなしく結婚を承諾すると行ってくれれば戦は回避できるとばかりに、アイリーンの答えに期待していた面々は、内大臣の言葉にハッと我に返った。
 ここでアイリーンとの婚姻を認めたが最後、デロスはパレマキリア統治下の属国に成ることが決まってしまう。
 水を打ったように静かになった閣議室の扉が激しく叩かれて、一呼吸置いてから扉が開かれた。
「申し上げます。殿下のご様子に異常有りと、伝令が参りました。姫に、急ぎ奥の宮殿にお越しいただきたいとの事でございます」
 伝令の言葉に、アイリーンはすぐに席を立った。
「すぐに参ります。内大臣、後で話があります。サロンで待っていて下さい。他の者は、それぞれの仕事に戻るように」
 アイリーンは言うと、ダッシュで兄が幽閉されている事になっている王宮奥の間へと急いだ。
 アイリーンが廊下を小走りに抜けるのを咎める者はなかった。

☆☆☆

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