お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 湊に行くと大海の北斗七星号と、諜報部が使用する超高速の高速艇が待っていた。
 船長に全速力でタリアレーナに戻り、アイリーンの指示を待つことを命じると、カルヴァドスは再び髪をオレンジにした。というよりも、染めていた黒い染料を落としたと言った方が正しかったかも知れない。
 またオレンジに戻したのかと呆れるアンドレを従え、カルヴァドスは高速艇に乗り込むと、大海の北斗七星号を先導するかのように、高速でタリアレーナを目指した。

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 冷え切ってしまった兄妹関係の修復をあえて試みず、アイリーンは呼ばれた時だけウィリアムの部屋に行って質問に答えた。
 ずいぶん体調が良くなったウィリアムは、屋敷の中を自由に歩いて運動も出来るようになっていたが、その介助はすべてカトリーヌが行っていた。
 一瞬で兄のウィリアムに知れたという事は、嫁げばすぐにダリウス王子にも、口付けを知らなかったアイリーンが今は、口付けを知っていることが知られてしまうのだと思うと、アイリーンの気持ちはさらに重くなった。

(・・・・・・・・きっと、ダリウス殿下の事だから、相手を知りたがるに決まっている・・・・・・・・)

 窓から庭を眺めていたアイリーンに、コパルが裏口に近い所に造られた食用の薔薇の花が綺麗に咲いていることを教えてくれた。
 それ以来、毎日のようにアイリーンは、バラの香りを楽しみに、そして、一枝花をもらってハーブティーに入れるために、花壇を訪れるようになっていた。

(・・・・・・・・もうすぐ一ヶ月。カルヴァドスさんは無事かしら? 戦に出征すると仰っていたけれど、本当に私に逢いに戻ってくることが出来るのかしら? ムリして逢ったところで、どうせ結ばれぬ運命なのだから、もう、そのまま私のことなど忘れて出征されて、無事にご家族の元にお帰りになって下さればいいのに・・・・・・・・)

 バラの花を見ては、アイリーンはカルヴァドスの事を思い出した。そして、思い出してはカルヴァドスのことを忘れ、ダリウス王子に嫁ぐのだと自分に言い聞かせる日々の繰り返しだった。

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