お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「でも、公爵でいらっしゃいましたよね?」
「ああ、まあ、そうだけど。姫さんの前では、俺は何時でも一等航海士のカルヴァドスでいいと思ってる」
「でも、私もカルヴァドスさんも、国に戻ったら、もう二度と逢えませんね。だって、私はカルヴァドスさんの本当の名前を知らないのですから、父に求婚者が居るって話せないですし。カルヴァドスさんも、私の本当の名前を知らないのですから、実際には逢いに来られませんもの」
これで物語は終わりなのだと、アイリーンは本を閉じるように言った。
「大丈夫だ。いざとなったら、デロスの港で、大声で姫さんを愛してるって叫び続けるから。そうしたら、デロスは小さい国だから、すぐに噂になるだろ。そうしたら、恥ずかしくて姫さん、すぐに俺を黙らせに来るだろ?」
カルヴァドスは閉じられた本を再び開こうとした。この物語には、まだ続きがあるとアイリーンに伝えるように。
「一刻も早く、逢いに行かれるようにするから。姫さん、心から愛してる」
応えたいのに応えられないアイリーンは、無言でカルヴァドスの瞳を見つめた。
その澄んだ黒い瞳は、アイリーンに物語は終わりではなく、続くのだと力強く語りかけてきた。
アイリーンの心がぐらりと揺れかけた瞬間、門の外から弾かれたようにしてオスカーがカルヴァドスの足元に転がりこんできた。
「あー、なんだよお前ら! せっかくの良いところなのに!」
カルヴァドスは頭を抱えながら言うと、倒れたオスカーに手を貸した。
「すっかり忘れてた。姫さん、オスカー達も逢いたがってたから、一緒に連れてきたんだった」
カルヴァドスが手で合図すると、オスカーを弾き出した若いクルー達がパタパタと走ってきた。
「姫さん、船は明後日には出航できますよ。食料とか積み替えたりする必要があるんで、三日前には必ず知らせてくださいね。それから、俺、手紙、ずいぶん書けるようになったんです。また、航海の間、教えてくださいね」
オスカーは言うと、ニッコリと笑って見せた。
「わかったわ。また、文字の読み書きを皆に教えるわ」
やっと笑顔を浮かべたアイリーンに、オスカーが恋人からの手紙を見せて自慢しようとしては、カルヴァドスに追い払われた。
皆が一斉に話しかけるので、会話はどれも途切れ途切れになったが、カルヴァドスとの未来を諦めたアイリーンには、二人っきりではないことが嬉しかった。
「皆さん、ありがとうございます。準備ができたら、船にご挨拶に伺いますから、デロスまで、よろしくお願いします。あと、帰りは四人になります」
「四人ですね。了解っす。姫さん、皆待ってますからね~。何だかんだ言って、船長も姫さんがいなくて寂しがってますからね」
オスカーは言うと、ニッコリと笑って見せた。
「姫さん、すごく顔色が悪いけど大丈夫か?」
カルヴァドスが問いかけたところにコパルが走り寄ってきた。
「お話し中、失礼いたします。ローズ様・・・・・・」
コパルが困ったように話しかけてきた。
ほんのわずかな、憩いの一時の終わりだった。
「どうか、ご武運を・・・・・・」
アイリーンの口をついて出た言葉に、カルヴァドスは笑顔を見せた。
「ありがとう、姫さん。姫さんに祝福して貰ったから、絶対に死なないな。本当に、ありがとう。じゃあ、今日はこれで。別れは言わないから。次は、デロスで逢おうな!」
カルヴァドスは言うと、困ったようなコパルと泣き出しそうなアイリーンに背を向け、クルー達を引き連れて去って行った。
アイリーンは無言でカルヴァドスを見送った。
☆☆☆
「ああ、まあ、そうだけど。姫さんの前では、俺は何時でも一等航海士のカルヴァドスでいいと思ってる」
「でも、私もカルヴァドスさんも、国に戻ったら、もう二度と逢えませんね。だって、私はカルヴァドスさんの本当の名前を知らないのですから、父に求婚者が居るって話せないですし。カルヴァドスさんも、私の本当の名前を知らないのですから、実際には逢いに来られませんもの」
これで物語は終わりなのだと、アイリーンは本を閉じるように言った。
「大丈夫だ。いざとなったら、デロスの港で、大声で姫さんを愛してるって叫び続けるから。そうしたら、デロスは小さい国だから、すぐに噂になるだろ。そうしたら、恥ずかしくて姫さん、すぐに俺を黙らせに来るだろ?」
カルヴァドスは閉じられた本を再び開こうとした。この物語には、まだ続きがあるとアイリーンに伝えるように。
「一刻も早く、逢いに行かれるようにするから。姫さん、心から愛してる」
応えたいのに応えられないアイリーンは、無言でカルヴァドスの瞳を見つめた。
その澄んだ黒い瞳は、アイリーンに物語は終わりではなく、続くのだと力強く語りかけてきた。
アイリーンの心がぐらりと揺れかけた瞬間、門の外から弾かれたようにしてオスカーがカルヴァドスの足元に転がりこんできた。
「あー、なんだよお前ら! せっかくの良いところなのに!」
カルヴァドスは頭を抱えながら言うと、倒れたオスカーに手を貸した。
「すっかり忘れてた。姫さん、オスカー達も逢いたがってたから、一緒に連れてきたんだった」
カルヴァドスが手で合図すると、オスカーを弾き出した若いクルー達がパタパタと走ってきた。
「姫さん、船は明後日には出航できますよ。食料とか積み替えたりする必要があるんで、三日前には必ず知らせてくださいね。それから、俺、手紙、ずいぶん書けるようになったんです。また、航海の間、教えてくださいね」
オスカーは言うと、ニッコリと笑って見せた。
「わかったわ。また、文字の読み書きを皆に教えるわ」
やっと笑顔を浮かべたアイリーンに、オスカーが恋人からの手紙を見せて自慢しようとしては、カルヴァドスに追い払われた。
皆が一斉に話しかけるので、会話はどれも途切れ途切れになったが、カルヴァドスとの未来を諦めたアイリーンには、二人っきりではないことが嬉しかった。
「皆さん、ありがとうございます。準備ができたら、船にご挨拶に伺いますから、デロスまで、よろしくお願いします。あと、帰りは四人になります」
「四人ですね。了解っす。姫さん、皆待ってますからね~。何だかんだ言って、船長も姫さんがいなくて寂しがってますからね」
オスカーは言うと、ニッコリと笑って見せた。
「姫さん、すごく顔色が悪いけど大丈夫か?」
カルヴァドスが問いかけたところにコパルが走り寄ってきた。
「お話し中、失礼いたします。ローズ様・・・・・・」
コパルが困ったように話しかけてきた。
ほんのわずかな、憩いの一時の終わりだった。
「どうか、ご武運を・・・・・・」
アイリーンの口をついて出た言葉に、カルヴァドスは笑顔を見せた。
「ありがとう、姫さん。姫さんに祝福して貰ったから、絶対に死なないな。本当に、ありがとう。じゃあ、今日はこれで。別れは言わないから。次は、デロスで逢おうな!」
カルヴァドスは言うと、困ったようなコパルと泣き出しそうなアイリーンに背を向け、クルー達を引き連れて去って行った。
アイリーンは無言でカルヴァドスを見送った。
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