お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 ダンスを踊れば、無理やりバルコニーに連れ出し口付けを迫ったり、城を案内するといっては自室にアイリーンを連れ込んだりと、数え上げればきりがないくらいダリウス王子はアイリーンに固執し、嫌がられていると知りながらアイリーンに触れる強者だった。普通、あそこまで拒絶されれば諦めるのが普通なのに、アイリーンが拒絶すればするほど、ダリウス王子はアイリーンをしつこく追い回した。
 そして、その結果が、病の国王と、王太子不在を狙い撃ちしたようにデロスに攻撃を仕掛けるに至った事は火を見るよりも明らかだった。そして、それはアイリーンが成人したからだと、すぐにウィリアムは気付いた。
「うかつだったな。アイリが今年成人したから、ダリウス王子はこの手を使ったわけか」
 ウィリアムの言葉に、アイリーンが首を傾げた。
「デロスには、特にそのような法はなかったと思うのですが・・・・・・」
 意味が分からず、アイリーンは首をかしげた。
「デロスにはない。だが、パレマキリアにはある。相手、つまり女性が成人していれば、親の許可がなくとも、本人の同意だけで婚姻を決めることができる。王子であれば、自国の民にはこんな方は必要ない。だが、異国の王女に対してならば、この法を使うに値するという事だ・・・・・・」
 アイリーンが聞いたことのないパレマキリアの法律だった。
「相手が自国の民でなくとも、法律が適用されるのですか?」
「ああ。あの国には、昔から他部族から妻を略奪してくる習わしがある。だから、相手が成人していて、婚姻に同意すれば、パレマキリアの法律に於いて婚姻が成立する。だから、アイリに直接答えを貰う必要がある。代理人ではだめなんだ。何か誓約の証を求められなかったか?」
 ウィリアムの言葉に、ダリウス王子に結婚を迫られ、口付けを迫られた時の恐怖がアイリーン中で蘇った。
「はい。口約束だけではだめだと。誓いの口付けを求められました」
「なんという破廉恥なことを!」
 ウィリアムは言うと、アイリーンを優しく抱きしめた。
「すまなかった、アイリ。私は、なんと勝手でバカな誤解をしていたのだ」
「お兄様・・・・・・」
「アイリ、この愚かな兄を許してくれ」
 ウィリアムは言うと、頭を垂れた。
「お兄様は愚かなどではございませんわ。私の尊敬する、お兄様ですもの」
 アイリーンは静かに答えた。
「アイリ」
 ウィリアムは心の中で、絶対に何があってもアイリーンをパレマキリアには嫁がせないと誓ったが、そのことは一切アイリーンの前で口にしなかった。

☆☆☆

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