お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 正式な王の代理であるアイリーンは、謁見の間に唯一用意された玉座に座り、国中から集まってきた陳情や仲裁、隣国からの訪問客との謁見を済ませた。
 国中と言っても、小さな国なのでたかが知れていると言えば、そうなのだが、その分、民と王室の距離は近く、ましてや姫巫女として神殿で仕えるアイリーンに対する民の親しみは国王や王太子の比ではない。


 ふらふらする体を王女としての矜持で支え、私室に向かう前にアイリーンは国王の寝室を訪ねた。
「アイリ、我が愛しの娘・・・・・・」
 父王は言うとアイリーンをしっかりと抱きしめた。
「少し痩せたのではないか?」
「大丈夫ですわ、お父様。お父様は、風邪をこじらせただけなのですから、ゆっくり休んで早くよくなって下さいね」
「アイリ・・・・・・」
 父王の目に涙が光った。
「せめて、王妃が存命であったなら・・・・・・」
「お父様、お母様が亡くなられて、もう十年です。お父様がいつまでもその様にお母様を追い求められては、お母様は女神の元に返ることができません」
 アイリーンに窘められ、父王はため息をついた。
「全く、その性格、本当に亡き王妃にそっくりだ」
「それをおっしゃるなら、このストロベリーブロンドもお母様譲りです」
「確かに。本当に、よく似ている。頼むから、あれのように私を置いてどこにも行かないでおくれ・・・・・・」
「もちろんですわ、お父様」
 アイリーンは言うと、父王の額にキスを落とし、自室へと下がっていった。


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