お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 神殿の中は、外の喧噪が嘘のように静かで、アイリーンは心を乱されることなく姫巫女としての務めを果たすことが出来た。
 アイゼンハイムとラフカディオの二匹も、アイリーンを害する者のいない神殿では寛いで、張りつめた神経を休める事が出来るようだった。
 海の女神への祈りを捧げ終えたアイリーンは、婚約の解消と他国へ嫁ぐことに関して、神殿の巫女長に教えを仰いだ。
 海の女神の前で誓われた婚約の誓いは神聖なものではあるが、海の女神に仕えてきたアイリーンに対して、海の女神が理不尽な要求をする事はないだろうと巫女長は答えた。しかし、姫巫女でなくなっても、王位継承を奪われることがないと言う説明も、アイリーンにとっては、嬉しいようで嬉しくない事だった。
 しかし、アイリーンとしては何としても兄のウィリアムが無事に戻ってくるまでの時間を稼がなくてはならない。
 そこで、婚約を解消するための祈りを半年として、その間は姫巫女としての公務以外にはつかず、基本、神殿で過ごすが、夜は王宮に帰って休むという提案をした。但し、降嫁するのではなく、他国に嫁ぐので、海の女神の神殿での婚約の儀は執り行わないが、姫巫女を辞して他国へ嫁ぐことの許しを求める祈りを三ヶ月、執り行う事を提案した。
 その頃には、巫女長もアイリーンの嫁ぎたくない気持ちを理解してくれ、まことしやかに、聖典に書かれていたかのようにアイリーンの婚約解消と姫巫女を辞すること、他国へ嫁ぐことに関わる一切の必要儀式の日程を書き記した物を用意してくれた。
 アイリーンはお礼を言うと、公的書簡を手に、神殿を後にした。


 王宮に戻ったアイリーンは、公的書簡を内大臣に届けさせ、父王の見舞いに行くことにした。

☆☆☆

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