お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
自室に戻ると、二匹が飛びかかるようにしてアイリーンに迫った。
ダリウス王子の臭いがするのが気に入らないからだと、アイリーンは分かっていたので、二匹が気の済むまで体を擦り付けるのを許した。
明日、王宮を出れば、しばらく二匹と過ごすことは出来なくなる。
船旅ならば、タリアレーナまでは何の心配もなく、旅行客としてたどり着くことが出来る。しかし、旅客船が使用する桟橋に見張りが付き、客船で出国できないとなると、商船に頼み込んで乗せて貰うしかない。
商船となると、あちこちの港に停泊しての移動となる。そうなると、タリアレーナまで二月以上はかかると考える必要がある。
片道二月半、往復五ヶ月もかかるとなると、半年しか時間のないアイリーンには、タリアレーナで兄のウィリアムを探す時間は一月しかない。
(・・・・・・・・六ヶ月で戻ってこなくては大変なことになる。それには一ヶ月で、お兄様を見つけなくてはならない。お兄様、どこにいらっしゃるの? でも、私は戻ればすぐに、パレマキリアに嫁がなくてはならない・・・・・・・・)
アイリーンは考えると涙をこぼした。アイリーンの涙に、二匹は驚きアイリーンを見上げた。
「ごめんなさい。二人とも。しばらくはお別れよ。でも、あのダリウス王子があなた達を連れて行くことに同意してくれるとも思えないの。そうしたら、私は、あなた達二人を置いて嫁ぐしかないの。本当にごめんなさい」
アイリーンは二人をギュッと抱きしめた。
「まあ、姫様!」
床に座って二匹を抱き締めるアイリーンの姿に、ローズマリーが驚いたような声を上げた。
「心配しないでローズ。ダリウス王子の臭いがするものだから、二人が落ち着かないの。だから、気の済むまでさせて上げようと思っているの。しばらく、離れ離れになるでしょ」
アイリーンは言うと、二人の頭を撫で、ゆっくりと立ち上がった。
「まあ、ドレスが毛だらけですわ」
ローズマリーは呆れたように言った。
「仕方がないわ。二人は毛皮を着ているんですもの」
アイリーンは言うと、窓辺のカウチへと移動した。
「間もなく、アルフレッド様もいらっしゃると思います」
「そう。ダリウス殿下は、ご満悦で帰国されたわ」
「では、婚約のお話しも本決まりに・・・・・・」
ローズマリーは声のトーンを下げた。
「婚約ではなく、結婚の約束をさせられたわ」
「結婚でございますか?」
ローズマリーの声が棘のある響きを持った。
「婚約解消に半年。次の婚約まで三ヶ月と説明したら、結婚は何時になるのかと言う話になり、仕方なく三ヶ月後であれば婚姻も可能になることをお話ししたら、即結婚だと押し切られてしまったの」
「なんと言うことでございましょう」
ローズマリーは泣き出さんばかりに顔を歪めた。
ちょうどそこへ、アルフレッドが窓から入ってきた。
「マリーどうした?」
「アルフ!」
ローズマリーはアイリーンの前だという事も忘れてアルフレッドの胸に飛び込んだ。
「姫様が、姫様が・・・・・・」
「アイリ、何があったんだ?」
要領を得ないアルフレッドがアイリーンに問いかけた。
「今日の話し合いで、九ヶ月後に私がダリウス殿下に嫁ぐことが決まったの」
「なんだって? 婚約だけじゃないのか?」
アルフレッドの反応もローズマリーと同じだった。
「婚約の約束だけでは納得して貰えなかったの。半年も婚約の解消にかかるなんてと・・・・・・。その上、次の婚約までは三ヶ月とお話ししたら、結婚は何時になるのかと・・・・・・。仕方なく、三ヶ月後には婚姻も可能だと言うしかなかったのです」
「それで、結婚の約束か・・・・・・。まあ、紙切れに約束を書き連ねただけなら証拠を隠滅してしまえば何とかなるか・・・・・・」
アルフレッドは言うと、パレマキリア王宮から書面を取り返す方法を考え始めた。
「でも、結婚の約束の証を求められたわ」
「約束の証? そんなものどうやって・・・・・・。指輪でも用意してきたのか?」
「いいえ。口付けを・・・・・・」
「口付け? 俺ともしたことがないのにか?」
「だからよ。確認されたの。フレドとは口づけをしたかと。それで、していないと答えたら、口づけを証にと」
婚約を解消されて二日しか経っていないアルフレッドとしては、元婚約者と言うよりも、アイリーンの兄のような気持ちで怒りがこみ上げてきた。
「謁見の間で、大臣達が見守る前で・・・・・・。あまりの恥ずかしさに、死んでしまいたくなったわ」
「口付けと言っても、お休みのキス程度だろ?」
「いいえ。長かったわ。呼吸が出来なくて苦しかったわ」
アイリーンは言うと、記憶を消してしまいたくてたまらなかった。
「長い? まさか、あの野郎・・・・・・」
アルフレッドは拳を握り締めながら唸った。
「仕方がないのよ、フレド。九ヶ月後には、あの殿下に嫁ぐことになるのだから、もう諦めたわ。今は、一刻も早くお兄様を見つけることに集中するわ」
堪えきれなくなり、ローズマリーが声を上げて泣き始めた。
アルフレッドは怒りの鉾先を向ける場所も無く、無力な自分を呪うように拳を握りしめ続けた。
「フレド、ローズをお願い。私は少し席を外すわ」
アイリーンは言うと、恋人同士を残して奥の寝室へと下がった。
残されたローズマリーは、しばらくの間、声を限りに泣き続けた。
アイリーンの前ではローズマリーを抱きしめることの出来なかったアルフレッドも、アイリーンが姿を隠したので、アルフレッドはローズマリーを抱き締めた。
「マリー」
「姫様がお可愛そうです。パレマキリアのダリウス殿下は、酷い荒くれ者のような王子だと噂にも聞いています。婚姻も未だなのに、多くの宮女に手を着けていると・・・・・・。そんな穢れた王子が姫の夫になるなんて・・・・・・」
「分かっている。ウィリアムが戻ってきたら、何としても結婚を取りやめさせる。今は、陛下がご病気でウィリアムが不在。この状態では、俺に出来ることは限られている。ウィリアムが戻り、陛下がお元気になられた暁には、必ずアイリの結婚は白紙撤回させる」
アルフレッドはローズマリーに言い聞かせるように、自分の心に誓いをたてた。
ローズマリーが泣き止み、落ち着くまでアルフレッドはローズマリーを抱きしめ続けた。
☆☆☆
ダリウス王子の臭いがするのが気に入らないからだと、アイリーンは分かっていたので、二匹が気の済むまで体を擦り付けるのを許した。
明日、王宮を出れば、しばらく二匹と過ごすことは出来なくなる。
船旅ならば、タリアレーナまでは何の心配もなく、旅行客としてたどり着くことが出来る。しかし、旅客船が使用する桟橋に見張りが付き、客船で出国できないとなると、商船に頼み込んで乗せて貰うしかない。
商船となると、あちこちの港に停泊しての移動となる。そうなると、タリアレーナまで二月以上はかかると考える必要がある。
片道二月半、往復五ヶ月もかかるとなると、半年しか時間のないアイリーンには、タリアレーナで兄のウィリアムを探す時間は一月しかない。
(・・・・・・・・六ヶ月で戻ってこなくては大変なことになる。それには一ヶ月で、お兄様を見つけなくてはならない。お兄様、どこにいらっしゃるの? でも、私は戻ればすぐに、パレマキリアに嫁がなくてはならない・・・・・・・・)
アイリーンは考えると涙をこぼした。アイリーンの涙に、二匹は驚きアイリーンを見上げた。
「ごめんなさい。二人とも。しばらくはお別れよ。でも、あのダリウス王子があなた達を連れて行くことに同意してくれるとも思えないの。そうしたら、私は、あなた達二人を置いて嫁ぐしかないの。本当にごめんなさい」
アイリーンは二人をギュッと抱きしめた。
「まあ、姫様!」
床に座って二匹を抱き締めるアイリーンの姿に、ローズマリーが驚いたような声を上げた。
「心配しないでローズ。ダリウス王子の臭いがするものだから、二人が落ち着かないの。だから、気の済むまでさせて上げようと思っているの。しばらく、離れ離れになるでしょ」
アイリーンは言うと、二人の頭を撫で、ゆっくりと立ち上がった。
「まあ、ドレスが毛だらけですわ」
ローズマリーは呆れたように言った。
「仕方がないわ。二人は毛皮を着ているんですもの」
アイリーンは言うと、窓辺のカウチへと移動した。
「間もなく、アルフレッド様もいらっしゃると思います」
「そう。ダリウス殿下は、ご満悦で帰国されたわ」
「では、婚約のお話しも本決まりに・・・・・・」
ローズマリーは声のトーンを下げた。
「婚約ではなく、結婚の約束をさせられたわ」
「結婚でございますか?」
ローズマリーの声が棘のある響きを持った。
「婚約解消に半年。次の婚約まで三ヶ月と説明したら、結婚は何時になるのかと言う話になり、仕方なく三ヶ月後であれば婚姻も可能になることをお話ししたら、即結婚だと押し切られてしまったの」
「なんと言うことでございましょう」
ローズマリーは泣き出さんばかりに顔を歪めた。
ちょうどそこへ、アルフレッドが窓から入ってきた。
「マリーどうした?」
「アルフ!」
ローズマリーはアイリーンの前だという事も忘れてアルフレッドの胸に飛び込んだ。
「姫様が、姫様が・・・・・・」
「アイリ、何があったんだ?」
要領を得ないアルフレッドがアイリーンに問いかけた。
「今日の話し合いで、九ヶ月後に私がダリウス殿下に嫁ぐことが決まったの」
「なんだって? 婚約だけじゃないのか?」
アルフレッドの反応もローズマリーと同じだった。
「婚約の約束だけでは納得して貰えなかったの。半年も婚約の解消にかかるなんてと・・・・・・。その上、次の婚約までは三ヶ月とお話ししたら、結婚は何時になるのかと・・・・・・。仕方なく、三ヶ月後には婚姻も可能だと言うしかなかったのです」
「それで、結婚の約束か・・・・・・。まあ、紙切れに約束を書き連ねただけなら証拠を隠滅してしまえば何とかなるか・・・・・・」
アルフレッドは言うと、パレマキリア王宮から書面を取り返す方法を考え始めた。
「でも、結婚の約束の証を求められたわ」
「約束の証? そんなものどうやって・・・・・・。指輪でも用意してきたのか?」
「いいえ。口付けを・・・・・・」
「口付け? 俺ともしたことがないのにか?」
「だからよ。確認されたの。フレドとは口づけをしたかと。それで、していないと答えたら、口づけを証にと」
婚約を解消されて二日しか経っていないアルフレッドとしては、元婚約者と言うよりも、アイリーンの兄のような気持ちで怒りがこみ上げてきた。
「謁見の間で、大臣達が見守る前で・・・・・・。あまりの恥ずかしさに、死んでしまいたくなったわ」
「口付けと言っても、お休みのキス程度だろ?」
「いいえ。長かったわ。呼吸が出来なくて苦しかったわ」
アイリーンは言うと、記憶を消してしまいたくてたまらなかった。
「長い? まさか、あの野郎・・・・・・」
アルフレッドは拳を握り締めながら唸った。
「仕方がないのよ、フレド。九ヶ月後には、あの殿下に嫁ぐことになるのだから、もう諦めたわ。今は、一刻も早くお兄様を見つけることに集中するわ」
堪えきれなくなり、ローズマリーが声を上げて泣き始めた。
アルフレッドは怒りの鉾先を向ける場所も無く、無力な自分を呪うように拳を握りしめ続けた。
「フレド、ローズをお願い。私は少し席を外すわ」
アイリーンは言うと、恋人同士を残して奥の寝室へと下がった。
残されたローズマリーは、しばらくの間、声を限りに泣き続けた。
アイリーンの前ではローズマリーを抱きしめることの出来なかったアルフレッドも、アイリーンが姿を隠したので、アルフレッドはローズマリーを抱き締めた。
「マリー」
「姫様がお可愛そうです。パレマキリアのダリウス殿下は、酷い荒くれ者のような王子だと噂にも聞いています。婚姻も未だなのに、多くの宮女に手を着けていると・・・・・・。そんな穢れた王子が姫の夫になるなんて・・・・・・」
「分かっている。ウィリアムが戻ってきたら、何としても結婚を取りやめさせる。今は、陛下がご病気でウィリアムが不在。この状態では、俺に出来ることは限られている。ウィリアムが戻り、陛下がお元気になられた暁には、必ずアイリの結婚は白紙撤回させる」
アルフレッドはローズマリーに言い聞かせるように、自分の心に誓いをたてた。
ローズマリーが泣き止み、落ち着くまでアルフレッドはローズマリーを抱きしめ続けた。
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