お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
「姫様、どうか、ご無事で・・・・・・」
 泣きながら見送るローズマリーに別れを告げ、アイリーンは神殿に物資を納品した店の荷車に乗せてもらい、神殿の地下に掘られた地下通路を通り城下町へと降りた。
 ゲートを出たところでは人目があるので、用心に用心を重ね、一旦店まで行ってから荷馬車からおろして貰った。
当然、荷運びの担当者は乗せてきたのがアイリーンとは知らず、本来は外出が許されない巫女が、身内の病気などやんごとない理由でこっそりと神殿を離れるものだと信じて疑っていなかった。
 実際のところ、海の女神の神殿で働く巫女は全員がデロス出身ではない。隣国や、六ヶ国同盟国の娘も女神の神殿に仕えに沢山来ている。
 表向き、未婚の女性が神殿を離れて過ちを犯すことがないように、神殿の規則は一度巫女となったら、死んでも神殿を離れることはできず、離れるときは戒律を破った破門者となるとされているので、余程の覚悟がない限り巫女になることはない。
 そして、それでも巫女になることを選んだ娘たちは、死したのちは神殿で火葬され、海に流される。そのため、家族が遺骨の引き取りを望んでも海に還った巫女の遺骨は返してもらうことができない決まりだった。
 しかし、どこにも例外はある。公にはなっていないが、アイリーンのようにこっそりと神殿を抜け、親兄弟の最期に立ち合いに出向く巫女も少なくない。
 但し、アイリーンの場合は、まったく理由が異なるのだが、協力する店の者たちにしてみれば、それは関わり知らぬことだった。
「気を付けてお行きなせぇ。間に合うように、俺たちも女神さまにお祈りしておくよ」
 何も知らない店の者の言葉だったが、ある意味、妙なくらい的を得ていて、アイリーンは顔を見られないように隠しながら、小声でお礼を言った。
店の者に見送られ、アイリーンは店の裏から表へと抜け、まるで買い物客のようにふるまいながら店を離れた。
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